身代わりから始まる恋 〜白い悪魔の正体は甘くて優しい白馬の王子!?〜
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小学五年生の夏、水泳の授業のときだった。
残り十分というところで、先生があとは自由時間! と言った。
みんな喜んでプールに入り、友達同士で水をかけあったり泳いだりしていた。
香蓮は友達と一緒に歩いてプールに向かう。
あと一歩というときだった。
「あ、あぶなーい!」
友達がふざけて押して、香蓮は声を上げる間もなくプールに落ちた。
なにが起きたのかわからなかった。
上下もわからず、ただもがいた。運悪く足がつってしまい、うまく浮かび上がれない。無意識に呼吸をしようとして、水が入り込んだ。
苦しい!
もがく香蓮の手を、誰かがつかんだ。そのままぐいっと引っ張られる。
胴体を支えられ、頭が水の上に出た。呼吸が空気をとらえ、咳き込んだ。
「大丈夫か!?」
先生が水をかきわけ、寄ってくる。
香蓮は咳で答えられない。
「先生、俺が運びます」
香蓮を助けた手は彼女を抱きかかえ、プールサイドに向かう。
「立てる?」
きかれて、ようやく香蓮は自分を助けてくれた人を見た。
白葉澄玲だった。
「うん」
答えると、彼は抱いていた手をそっと離す。水の抵抗を受けながら、香蓮はゆっくりと立った。
「ありがとう」
彼女の言葉に、澄玲は黙ってうなずいた。