陰キャな凄腕プログラマーくんの視線が気になって仕事になりません!
「それでは、僕がここでキスをしても不快な気持ちにならない程度に好きですか?」

「へっ!」

 唐突な質問に口がパクパクし、とてもではないけれど、言葉が発せる状況ではない。

 どうしようどうしよう、と脳内パニックを起こしていると、コツンコツンと、オフィスの出口付近でヒールが床を叩きつける音がした。

「広瀬さん、お願いします。加藤さんが来る前に答えてください。広瀬さんの嫌がることはしたくありませんから」

 肌に息を感じるほど近い彼からは、爽快なミント臭が漂っていて、頭がくらくらし始めていた。

「それではこうしましょう。キスをしてもいいなら、頷いてください。やめてほしければそのまま何もしないでください。お願いです」

 眼鏡で二倍になった目力で懇願され、私は自分の理性とは別の何かに動かされるように、小さく頷いてしまった。

 すると、いきなりスイッチが入ったかのように海堂は私を近くの柱に押し付け、一瞬得体のしれない恐怖のようなものが胸を込み上げた。

 それは、スイッチの入った男を前にして、女性としてDNAに深く刻み込まれた本能による恐怖なのかもしれない。

「佳奈さん……」

 加藤さんがまだ近くにいるわけではないのに、下の名前で優しく呼ばれ、胸が切なく締め付けられる。

 柱に両手をついて私を挟み込むような格好を取っていた彼は、耳元に顔を埋め、私にしか聞こえないような甘い声で囁く。

「僕がこれからすることに対して、嫌がるふりをしてくれますか」

 何となく彼の意図がわかってきた気がした。

 私は再びこくりと頷くことしかできなかった…………

      ◇◇◇
< 1 / 15 >

この作品をシェア

pagetop