目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

◇108 タクミside

 朝、王城から遣いが来た。次の日、国王陛下への謁見を言い渡されたのだ。

 一体何を言われるのだろうか、まぁ色々と予想は出来るが。


「……これで行くか?」

「ちょおっと待てぃお兄ちゃん、遂に頭おかしくなった?」

「いや、面倒だなって思って」


 きっと陛下は【なかむら】の従業員として呼んでいるのだろうが……いや、従業員用の制服じゃいけないのは分かってるけどさ。

 馬鹿な事言ってないでさっさと着替えろ、と言われ、ガン無視で自室に戻った。



 無駄に広い謁見室。目の前の玉座には、この国カーネリアン王国の国王陛下と王妃殿下。他の殿下などはいないらしい。てか、王妃殿下なにぶすーとしてるんだよ。眼光が凄いって。まぁ別に怖くも何ともねぇけどな。


「今日来てもらったのは、君達に依頼をしたくてな」

「えっ……依頼、ですか」

「あぁ、王城の者達の日頃の働きは我々も評価している。それに、サミットの件に、第一王女の結婚式もあった。だから、彼らに褒美を与えたく思っている。一日だけでいい、王城の者達への昼食を作ってもらいたい」


 王城の者達全員、だと? しかも、昼食!?


「それは、陛下方も、でしょうか」

「そうだ。そうだな、今巷ではやっている〝エバニス料理〟を用意してくれ」


 ……マジかよ。エバニス料理かよ。

 でも、ここで断るわけにはいかないな。さて、どうすっかな。


「承りました。それで、日程は?」

「そうだな……私達家族が揃って食事が出来るは5日後だったか。その日でよいか?」

「はい、かしこまりました」


 家族って……それ、アヤメとか入ってないよな。アヤメは陛下の姪だけど、それで呼ばれるのは絶対嫌だな。だって王妃殿下もいらして、王太子殿下もいらっしゃるんだぞ? ふざけんな、マジで。

 あとで、アドマンス夫人にでも相談してみるか。あの方ならまぁ何とかしてくださると思う。

 でも、


「困ったな」

「エビ、足りないでしょ」

「陛下がああ言うんだから、王城の奴ら全員にもエビを振る舞わないといけないって事だな」

「これさぁ、絶対分かってて言ったでしょ。店でエバニス料理が数量限定になっている事も、その理由も分かってて言ったんだよ」


 エビの他にも、王城の者達への昼飯って事にも問題がある。王城の者達は部署によってはちゃんと時間通りに食事が出来るところだったり、仕事に区切りがついた隙間時間にさっさと食べないといけないところと様々だ。

 だから、昼飯を食べに来る者達の時間はバラバラ。早い者や、凄く遅い時間に昼飯を取る者もいるって事だ。

 その度その度昼飯を作る事になるが……


「ナナミ、スフェーンの収穫祭の時の覚えてるか」

「あぁ、やったねぇ。おっけー」

「俺はアドマンス家に行ってくる」

「じゃあ私は一旦店に戻って確認してくるね」


 俺達は、別々の巡回馬車に乗り込んだのだった。


 ナナミに言った通り、俺の行き先はアドマンス家。事前の知らせなしで来ちまったけど、大丈夫かな。という心配は無用だった。すぐに迎え入れてくれて、夫人に会うことが出来た。

 本当は王城にいらっしゃる公爵様に直接言ったほうがいいのかなとも思ったけれど、仕事中だしな。


「それで、陛下に何を言われたのかしら?」

「王城の者達全員と陛下方の昼飯を作れと仰いました」

「……あぁ、なるほどね」


 夫人は、こんな事を言い出した陛下の意図を理解したようだ。俺も、まぁ何となく分かる気がする。たぶん、っていう程度だけど。


「となると、エバニスが足りなくなるって事ね」

「はい」


 俺らがいつも仕入れている量では圧倒的に足りない。城で働く者達の人数が多すぎる。


「そうねぇ、今の時期領地では多く水揚げされているからその量はすぐに用意出来るわ。とは言っても、領地までの距離を往復するとなると、その日までに間に合うかどうか、という事になるわね。ギリギリでも大丈夫かしら?」

「はい、時間ギリギリになるのは承知しています」

「分かったわ、手紙を書いてあげる。その手紙を一番足の速い【フラワーメール】の配達員に届けさせるわ」

「ありがとうございます、お願いします」


 ここから馬車で3日。行きは馬だとしても、エビを運ぶとなれば馬車でなければならない。だが、夫人がこう言って下さっているんだから、きっと間に合うに決まってる。

 今、アヤメは違う事業で出回っているらしい。あの洗濯機とゴム手袋だ。だからこの事は関わらせないようにするらしい。俺としても心配させたくないから黙ってたほうがいいと思う。


「それで、夫人。その食事会にアヤメさんが呼ばれてる事は、ありませんよね?」

「え? ないわよ? 来たとしてもその手紙は私が燃やすに決まってるでしょ?」


 ……笑顔だけど、怖いな。王族とアヤメの件は本当に頭にきてるらしい。俺もだけど、夫人は相当だな。

 とにかく、エビの確保が出来たんだ。後は他の事に集中しよう。



「今回は、〝弁当〟で行く」

「〝弁当〟?」

「あぁ」


 今回も王城の厨房をお借りする事になる。だからここの料理人達の手も借りる事になる。まぁサミットで一緒に仕事したから大体は分かってるだろうが、だがあの時と明らかに違うのは人数だ。


「ここの使用人達は食事はバラバラだ。だから来てすぐに出せるものってなると限られてくる」


 いつもは、スープとサラダ、あとパンみたいなものだけ。それなら簡単に出せるけれど今回はそうはいかない。エバニス料理を入れなきゃいけなくなるからだ。

 だから弁当を選んだ。冷めても美味しい料理、そしてスープだけ温かいものを。スープだけなら温めてすぐに出せる。


「弁当は二種類。皆好みはあるだろうからな。まぁ早い者勝ちになるけど」

「ってなると、すっごく早く昼食を食べる人達が来る前に全部終わらせなきゃならなくなるし、朝食の中やらなきゃならなくなるって事ね。ここは広いっちゃ広いけれど朝食と昼食同時進行ってなると場所考えなきゃ」

「弁当箱を並べる場所も必要だしな」


 ナナミはもう弁当箱を注文している。こっちに来た時に知り合ったやつに頼んで4日後までには全部終わらせると聞いた。あとはエビだけだ。
 


 一日、また一日と勝負の日が近づいていき、そして前日、当日となったのだ。

 だがまだ、エビは到着していない。連絡は無理だからただ早くエビが届くのを祈るだけ。だから、時間が近づいていくたびに不安が募ってくる。

 だけど、こっちは大変だっていうのに……あいつらがやってきた。


「え、えぇえ!?」

「何で来てるんだよ……!!」

「来ちゃった♡」

「母上!!」


 こっちは時間がないっていうのに店を代わりにやるだ何だって言い出す始末。あ~も~煩い。

 もういいや、さっさと行こう。と父上達を無視して馬車に乗り込んだ。


 箸を使えるのは【なかむら】の5人だけ。とは言ってもサンスは何とかって所だけど。だから盛り付けは俺らで流れ作業になる。エビが何時到着するかが分かればいいんだけど……


「よっしゃやるぞ」

「お~!」


 俺らは数日しかここに来てないが、ここ出身のサンスはよく知ってる。だから聞きながらも作業を進めた。

 昨日から準備していたものはあるけれど、当日じゃなきゃいけないものもある。あ~も~とっとと来いエビ!!


「ナカムラ様ー!! 【フラワーメール】です!!」


「来たぁ!!」

「リカルド!! 下処理!!」

「はいっス!!」

「私も~!」

「ナオはこっちっ!!」

「はいは~い!」


 何だかんだとバタバタしつつ、でも時間ギリギリではあったけれど間に合わせることが出来た。

 弁当と王様達の昼飯とで頭がこんがらがりそうにはなったけれど、まぁ何とかって所かな。今までこんなこと全然なかったんだけど、肝が冷えたわ。こんなのはもう勘弁だ。……って思ってたらまた来るんだろうなぁ、はぁ。


「……あ、店」

「ママ、暴れてないかな」

「ありましたね、そういえば。煩い奴のテーブルに穴開けた事」

「父上が母上の剣をちゃんと回収してたら大丈夫だろ。それか包丁を持たせなければな」

「何呑気な事言ってるのよ、あのテーブルいくらすると思ってるのよ」


 とりあえず、帰ろう。

 料理人達が賄いをたかってくる前に。

 母上が剣を抜いて暴れ出す前に。



 後日、陛下方からのお褒めの言葉を頂いた。


「今回の件と、サミットでの件を含めて褒美を与えたいと思っている。何が良いか申してみよ。店を新しくするのも良し、二号店を開くのも良し、食材を育てる畑を作る土地でも良いぞ」


 はぁ、そんなの要らないんだけど。俺らは、ただ言われたからやっただけだし。……おい、ナナミ。何考えてんだ、なんだその顔は。


「では、ナカムラ家の商会の関税を少し下げて頂けないでしょうか」

「他には?」

「いえ、それだけで結構です」

「ほぅ、それだけでいいのか」

「はい」

「よかろう、後日書類を送るとしよう」

「ありがとうございます」


 陛下がおっしゃった事。二号店を開いてもいいと言ったが、それならもっと従業員を増やさなくてはならない。新人教育も必要だけど、一番は従業員全員の面倒を見ないといけなくなるという事。

 土地をやるとも言われたけれど、一体どこの土地をくれるのやら。場合によっては大変な事になる。

 陛下がこうおっしゃった理由はただ一つ、俺らをカーネリアンから出さないようにする。ただそれだけだ。

 王妃殿下が、王太子殿下とアヤメを結婚させたがっていたのは、他国出身である俺がアヤメを連れて行ってしまうのではと考えたためだ。

 そして陛下は、アヤメが駄目なら俺を、と考えたんだろうな。まぁ、その気はないけれどな。

 ここは、カーネリアンは俺とアヤメが出会った国。

 それに、結婚したらアドマンス家の別邸で過ごすって決まってるしな。

 まぁちょっと癪には触るけど、な。

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