目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
◇12 【お食事処・なかむら】
今日は快晴。そして今私はお母様ととある店の前にいます。
見た事のある、感じた事のあるこのお店の雰囲気。所々違った所はあるけれど、まさしく和食の料理店。入口に大きなのれんがあって、その上に大きな木の看板。書いてあったこのお店の名前は【お食事処・なかむら】
何とも聞き慣れた名前。ここの店主は一体どんな名前だろうか。あ、でも日本人だとは決まっていない。80年前に異世界人が現れた国の人が出したお店だって聞いた。じゃあその異世界人の出身はどこなのだろうか。聞けば分かるかな。
「いらっしゃいませ~!」
横にスライドする扉を開くと、外装同様の雰囲気が店内に広がっていた。とても、懐かしかった。中から従業員の声が聞こえて。女性の声だった。
あら、とっても素敵ね。とお母様も気に入って下さっているようだ。
右側に商品の販売、左側にはテーブルがいくつもあって。きっとそっちで食事が出来るんだろう。
商品の中には、コックさんが言っていた通り醤油や味噌などの調味料や緑茶にのりにかつお節。そして梅干し!!
「あ、あった!」
一番端に置かれていた商品、〝お箸〟だ。色々なデザインがあって、シンプルなものからしま模様だったりお花が彫ってあるものまで。
素敵なものばかりなのに、こんな端に置かれてしまっている理由は分からなくもない。あ、ダジャレじゃないからね? 全然お箸文化が広がっていない事が原因って事よ。
「何か気に入ったものは見つかった?」
「このお花の模様、私が以前使ってたお箸に似てるので、これにします」
「あら、可愛いじゃない! じゃあ、私はこっちを購入しようかしら」
「えっ、お母様もですか……?」
「えぇ」
お母様が手に取ったのは、持ち手部分が大人しめのピンク色になっているお箸。ピンク色の髪色をしたお母様にぴったりのお箸だ。
じゃあ、バートにはこれで……と楽しく選び出しちゃった。使い方を教えてね、という事かな?
でも、お箸に興味を持ってくれる人が身近にいるのって、結構嬉しい。
箸の隣には、箸置きもあって。木や陶器っぽいものが置いてある。……え、待って、これ、って……
ピンク色で、5枚の花びらのついた花。
私の故郷、日本ではよく知られているもの。
「……桜?」
「はい、そうですよ」
その声は、ついさっき「いらっしゃいませ」と声をかけてきた人物。このお店の従業員である若い女性だ。私と同じくらいか、ちょっと上くらい。
あ……髪は茶髪、そして瞳は黒だ。
「お客様、もしかして……日本という国を知ってます?」
「あ……」
言っていいのかどうか少し迷ってしまい、隣にいたお母様に視線を送った。にこり、と微笑んでくれて。じゃあ、言っても大丈夫だ。丁度他のお客さんもいないし。
「私、日本人なんです」
「やっぱり!」
ちょっと待っててくださいね、と一言残して後ろに行ってしまった。元気な人だなぁ。
あの女の人、目も黒だったし、顔も何となく日本人顔だった。もしかして、その異世界人が日本人で、子孫だったりする?
そして、また戻ってきた女の人。だけど、もう一人を連れてきた。男性だ。ちょっと年上くらいで、背の高い男性。そして……私と同じ、黒髪の黒い瞳だった。
まさしく、日本人。
そう言っていいくらいの人だった。
「えっ」
「日本人の方なんだって!」
「は、はじめまして。アヤメ・アドマンスです。あ、以前の名前は、〝奥村菖〟です」
ぽかん、と口を開けてびっくりしている男性。私も結構びっくりだけど。
隣にいるお母様は、私と男性を交互に見てて。あらまぁ、と驚いていた。
「初めまして、ナナミ・ナカムラと申します。こっちは兄の……」
「タクミ・ナカムラです」
うん、日本人だ。名前が。やっぱり日本人の血が流れてる?
と思っていたら、説明してくれた。やっぱり、私の読みは当たっていたようで。彼らのお爺様が日本人なんだそうだ。
ここにある食材などは、おじい様が作り出したもの。自国に経営しているお店があるそうで、人気が出ているそう。おじい様は、この異世界に地球の料理を広めたいという願いがあるらしく、今回ここに支店を出したそうだ。
「ここで日本人の方に会えるなんて思ってもみませんでした」
「ご来店した時、もしかしてって思ったんです。お会い出来て嬉しいです」
「こ、こちらこそ! 同じ故郷の方のお孫さんに会えるなんて光栄です」
今日は買い物とあと食事をしにきたと伝えると、テーブルの方に案内された。
出てきた緑茶は、本当に美味しかった。はぁ、この味だよ。うんうん。
この湯呑も、とっても懐かしい。あ、私は使った事ないけれど色々な所で見た事がある。
メニューは、定食とデザートのみだった。見たところ、ここの従業員はこの兄妹二人だけみたい。となると、これ以上メニューがあったら大変だもんね。
メニューの内容は、全部知っているものばかり。縦に書かれている所も、懐かしくてついふふっと笑ってしまった。
「アヤメちゃんはどれにする?」
「ん~、迷いますね」
定食は3種類。オムライス定食、唐揚げ定食、そしてミックスフライ定食だ。こんな和食料理店のような場所にオムライスかぁ~、ふふ、面白いけど気に入っちゃった。
80年前、って事は……昭和って事? 昭和の日本の食文化って事か。どんな感じだったっけ?
けどどうしよう、あ~どれも捨てがたい。今の私の中で一番魅力的なのはこのミックスフライ。
でも揚げ物って食べていいのかな。病院ではあまり食べなかったし、こっちに来てからも揚げ物って少ししか食べた事ないし。さて、どうしたものか。でもそれはあとでシモン先生に聞いてみる事にして……
「何か、他に食べたいものがおありですか」
「え?」
お兄さんの方が、そう私に言った。この他に、か。知ってるものなら作りますよ、と言ってくれて。え、いいんですか?
「……お茶漬け、いいですか?」
「お茶漬け? トッピングは如何します?」
え、いいの?
「じゃあ、梅干しがいいです」
「かしこまりました。じゃあ他に付け合わせもご用意します」
「ありがとうございます!」
やったぁ! これでご飯と梅干が食べられる! 実は私お茶漬け結構好きなの! ここで食べられるとは思いもしてなかったからとっても嬉しい! 嬉しすぎる!
本当はね、ふっくらご飯とお味噌汁も食べたいんだけど、それでもやっぱりお茶漬けが食べたかったの!
じゃあ私は、とお母様もメニューを覗いていて。妹さんの説明を聞きながら、オムライス定食に決めていた。
じゃあお待ちください、と中に戻っていった。
それにしてもこのお店、がらーんとしてる。今はお昼時、それに祝日だ。それなのに閑古鳥が鳴いているというのは……きっと文化の違いだろうね。
私としては、和食料理店の雰囲気があるけれど入りやすいお店だなって思ってた。けど、ここの人達にとっては違ったみたい。知らない文化だから皆興味を持つと思うんだけどな。
日本人の私と、この世界の人達とは感覚が違うってことか。
あ、いい匂いしてきた。
くんくん、とつい鼻を動かしてしまって。これは、卵の匂いだ。お母様はオムライス、私はお茶漬け。となると……お母様のオムライスかな?
と思っていたら、すぐに妹さんが持ってきてくれた。
すぐに出てきたことにも驚いたけれど、とても美味しそうな見た目と香りにお腹がなってしまいそうで。お母様も、まぁ! と、目を輝かせていた。
さっき、カトラリーはどうします? と聞かれてお箸を選んでおいたから、お箸と、あと食器も日本仕様。対してお母様は洋式のナイフとフォーク、白くて平たいお皿だ。
私の頼んだものには、付け合わせに卵焼き。あと、おひたしとたくあんも付いていて。
「いただきます」
その声に、お母様も同じようにいただきますと手を合わせた。実は、この世界のごはんの挨拶は違うらしい。お祈りのポーズみたいに両手を組んで、「祝福の女神に感謝を込めて」と言うらしい。
でも、私の挨拶を見て皆さんあわせてくれている。いいのかな、と思ったけれど楽しそうにやってるから何も言えなかった。
そして、お茶を注がれたお茶漬け。口に入れると……
「ん~~~~っ♡」
はぁ~~~美味しい♡ そう、これよこれ! 私が求めていた味は!
何か、一気に地球料理(?)の味が蘇ってきた感じ。あ、これじゃ分かりづらいか。言葉では表すことが出来ない感覚。とりあえず、美味しい! 懐かしい味!
……はっ! ダメダメダメ、これじゃ貴族令嬢としてはしたない。怒られちゃ……
と、思ったら。目の前のお母様はクスクスと笑っていて。
「あの、ごめんなさい、お母様」
「いいのよ、自分の娘のこんなに嬉しそうな姿を見て喜ばない親はいないわ。好きなように食べなさい」
「あ、ありがとうございます!」
卵焼きも出汁巻き卵だったらしく、出汁がとってもきいてるし、おひたしも最高。漬物なんていい感じに漬かってていくらでも食べれるかも。あ、食べ過ぎは禁物だけどね。はぁ~天国だわぁ。
けど、顔がだいぶ緩んじゃっていた所を、従業員の妹さんが見ていてちょっと恥ずかしかった。
「ごちそうさまでした」
「ふふ、ごちそうさまでした」
あっという間に食べ終わってしまった。いつもは結構ゆっくりなんだけど、とっても楽しみにしてた和食だったからだよね。
はぁ、また来たいなぁ。と思っていたら、今度は何か私達の前に並べられた。これは……
「デザート、おまけです」
「えっ、いいんですか?」
「えぇ、あんないい食べっぷり見ちゃったらおまけしたくなっちゃいますよ」
「あ……」
ちょっと、恥ずかしいな。
目の前にあるこれは、よく知ってる和菓子。〝ようかん〟だ。これ冷やすと美味しいんだよねぇ。ようかんはもちろん、あんこだってだいぶ食べてなかったからなぁ。
とっても風情のあるお皿に乗せられていて、和菓子用のフォークも付いている。スッとフォークが入っていって、簡単に切り取ることが出来た。
パクリ、と口に入れると……
「ん~~~~♡」
ようかんだぁ! こしあんの水ようかん! あんこの味もちゃんとしてて、つるつるしてて、あっさりした甘さで最高です!
「緑茶ととっても合うわね、美味しいわ」
「この他にも、栗ようかん、抹茶ようかん、芋ようかんなどがあります。もしよかったら特別にお持ち帰りをご用意しますが、いかがですか」
「あら、いいの?」
特別に、だなんて嬉しすぎる! そしたら、お屋敷の皆さんやお父様にも食べてもらえるって事だよね!
「いいわね、じゃあいただこうかしら」
「かしこまりました!」
わぁい、そしたら緑茶も買わなきゃ。他の商品も沢山選んじゃったから大荷物だ。あはは。
では、こちらもどうぞ。と紙袋を渡してくれた。ちゃんと取っ手のついた紙袋だ。こちらでは、取っ手のついていない袋が主流だから珍しい。きっとその異世界の方が考案したものなんだろうな。
そして、中身は……
「お、米だ……」
「はい。炊き方が難しくてお店に並べられなかったんですけど……」
けれど、思ってしまった。どうしよう、困った。
「あの、すみません」
「え?」
「その、私、機械? 以外で炊いたこと、なくて……」
「えっ」
え、もしかして日本人なら普通に炊けるって思っちゃってる? あ、でもお二人のおじい様の時代に炊飯器がなかった可能性がある。それなら、そう思うのはおかしくない。
「その、ですね。私の時代だと、炊飯器っていう機械があって、洗ったお米とお水を入れると炊いてくれるんです。一家に一台ある家電でして……私も、それを使ってたので……」
「あ……す、すみません……」
「あ、でも〝始めちょろちょろ中ぱっぱ〟は知ってますよ!」
「……ん?」
あ、通じなかった?
やっちゃった、気まずくなっちゃった……ごめんなさい。だけど、すかさずお母様が一言。
「じゃあ、作っちゃったらどう?」
「え?」
「炊飯器、魔道具で作ったらいいじゃない。ほら、今レスリート卿にお願いしてるでしょ? 一緒に作ってもらいましょうよ」
きっと喜ぶわよ、とニコニコするお母様。もう一つだなんていいのだろうか。頼みすぎじゃない?
「で、ですがご夫人、それは、需要がないのでは?」
「大丈夫よ、そこは心配しないで」
後日、お話をさせてちょうだいとお母様が言っていて。今日はここで帰ることになってしまった。
「お母様、何を……?」
「いいのよ、これはビジネスだから」
ビジネス、ですか……?
結局、お母様は最後まで教えてくださらなかった。
持ち帰ったようかんは、中に三種類入っていてどれも美味しかった。お父様もとても絶賛していて、特に抹茶ようかんが好みだったようだ。
見た事のある、感じた事のあるこのお店の雰囲気。所々違った所はあるけれど、まさしく和食の料理店。入口に大きなのれんがあって、その上に大きな木の看板。書いてあったこのお店の名前は【お食事処・なかむら】
何とも聞き慣れた名前。ここの店主は一体どんな名前だろうか。あ、でも日本人だとは決まっていない。80年前に異世界人が現れた国の人が出したお店だって聞いた。じゃあその異世界人の出身はどこなのだろうか。聞けば分かるかな。
「いらっしゃいませ~!」
横にスライドする扉を開くと、外装同様の雰囲気が店内に広がっていた。とても、懐かしかった。中から従業員の声が聞こえて。女性の声だった。
あら、とっても素敵ね。とお母様も気に入って下さっているようだ。
右側に商品の販売、左側にはテーブルがいくつもあって。きっとそっちで食事が出来るんだろう。
商品の中には、コックさんが言っていた通り醤油や味噌などの調味料や緑茶にのりにかつお節。そして梅干し!!
「あ、あった!」
一番端に置かれていた商品、〝お箸〟だ。色々なデザインがあって、シンプルなものからしま模様だったりお花が彫ってあるものまで。
素敵なものばかりなのに、こんな端に置かれてしまっている理由は分からなくもない。あ、ダジャレじゃないからね? 全然お箸文化が広がっていない事が原因って事よ。
「何か気に入ったものは見つかった?」
「このお花の模様、私が以前使ってたお箸に似てるので、これにします」
「あら、可愛いじゃない! じゃあ、私はこっちを購入しようかしら」
「えっ、お母様もですか……?」
「えぇ」
お母様が手に取ったのは、持ち手部分が大人しめのピンク色になっているお箸。ピンク色の髪色をしたお母様にぴったりのお箸だ。
じゃあ、バートにはこれで……と楽しく選び出しちゃった。使い方を教えてね、という事かな?
でも、お箸に興味を持ってくれる人が身近にいるのって、結構嬉しい。
箸の隣には、箸置きもあって。木や陶器っぽいものが置いてある。……え、待って、これ、って……
ピンク色で、5枚の花びらのついた花。
私の故郷、日本ではよく知られているもの。
「……桜?」
「はい、そうですよ」
その声は、ついさっき「いらっしゃいませ」と声をかけてきた人物。このお店の従業員である若い女性だ。私と同じくらいか、ちょっと上くらい。
あ……髪は茶髪、そして瞳は黒だ。
「お客様、もしかして……日本という国を知ってます?」
「あ……」
言っていいのかどうか少し迷ってしまい、隣にいたお母様に視線を送った。にこり、と微笑んでくれて。じゃあ、言っても大丈夫だ。丁度他のお客さんもいないし。
「私、日本人なんです」
「やっぱり!」
ちょっと待っててくださいね、と一言残して後ろに行ってしまった。元気な人だなぁ。
あの女の人、目も黒だったし、顔も何となく日本人顔だった。もしかして、その異世界人が日本人で、子孫だったりする?
そして、また戻ってきた女の人。だけど、もう一人を連れてきた。男性だ。ちょっと年上くらいで、背の高い男性。そして……私と同じ、黒髪の黒い瞳だった。
まさしく、日本人。
そう言っていいくらいの人だった。
「えっ」
「日本人の方なんだって!」
「は、はじめまして。アヤメ・アドマンスです。あ、以前の名前は、〝奥村菖〟です」
ぽかん、と口を開けてびっくりしている男性。私も結構びっくりだけど。
隣にいるお母様は、私と男性を交互に見てて。あらまぁ、と驚いていた。
「初めまして、ナナミ・ナカムラと申します。こっちは兄の……」
「タクミ・ナカムラです」
うん、日本人だ。名前が。やっぱり日本人の血が流れてる?
と思っていたら、説明してくれた。やっぱり、私の読みは当たっていたようで。彼らのお爺様が日本人なんだそうだ。
ここにある食材などは、おじい様が作り出したもの。自国に経営しているお店があるそうで、人気が出ているそう。おじい様は、この異世界に地球の料理を広めたいという願いがあるらしく、今回ここに支店を出したそうだ。
「ここで日本人の方に会えるなんて思ってもみませんでした」
「ご来店した時、もしかしてって思ったんです。お会い出来て嬉しいです」
「こ、こちらこそ! 同じ故郷の方のお孫さんに会えるなんて光栄です」
今日は買い物とあと食事をしにきたと伝えると、テーブルの方に案内された。
出てきた緑茶は、本当に美味しかった。はぁ、この味だよ。うんうん。
この湯呑も、とっても懐かしい。あ、私は使った事ないけれど色々な所で見た事がある。
メニューは、定食とデザートのみだった。見たところ、ここの従業員はこの兄妹二人だけみたい。となると、これ以上メニューがあったら大変だもんね。
メニューの内容は、全部知っているものばかり。縦に書かれている所も、懐かしくてついふふっと笑ってしまった。
「アヤメちゃんはどれにする?」
「ん~、迷いますね」
定食は3種類。オムライス定食、唐揚げ定食、そしてミックスフライ定食だ。こんな和食料理店のような場所にオムライスかぁ~、ふふ、面白いけど気に入っちゃった。
80年前、って事は……昭和って事? 昭和の日本の食文化って事か。どんな感じだったっけ?
けどどうしよう、あ~どれも捨てがたい。今の私の中で一番魅力的なのはこのミックスフライ。
でも揚げ物って食べていいのかな。病院ではあまり食べなかったし、こっちに来てからも揚げ物って少ししか食べた事ないし。さて、どうしたものか。でもそれはあとでシモン先生に聞いてみる事にして……
「何か、他に食べたいものがおありですか」
「え?」
お兄さんの方が、そう私に言った。この他に、か。知ってるものなら作りますよ、と言ってくれて。え、いいんですか?
「……お茶漬け、いいですか?」
「お茶漬け? トッピングは如何します?」
え、いいの?
「じゃあ、梅干しがいいです」
「かしこまりました。じゃあ他に付け合わせもご用意します」
「ありがとうございます!」
やったぁ! これでご飯と梅干が食べられる! 実は私お茶漬け結構好きなの! ここで食べられるとは思いもしてなかったからとっても嬉しい! 嬉しすぎる!
本当はね、ふっくらご飯とお味噌汁も食べたいんだけど、それでもやっぱりお茶漬けが食べたかったの!
じゃあ私は、とお母様もメニューを覗いていて。妹さんの説明を聞きながら、オムライス定食に決めていた。
じゃあお待ちください、と中に戻っていった。
それにしてもこのお店、がらーんとしてる。今はお昼時、それに祝日だ。それなのに閑古鳥が鳴いているというのは……きっと文化の違いだろうね。
私としては、和食料理店の雰囲気があるけれど入りやすいお店だなって思ってた。けど、ここの人達にとっては違ったみたい。知らない文化だから皆興味を持つと思うんだけどな。
日本人の私と、この世界の人達とは感覚が違うってことか。
あ、いい匂いしてきた。
くんくん、とつい鼻を動かしてしまって。これは、卵の匂いだ。お母様はオムライス、私はお茶漬け。となると……お母様のオムライスかな?
と思っていたら、すぐに妹さんが持ってきてくれた。
すぐに出てきたことにも驚いたけれど、とても美味しそうな見た目と香りにお腹がなってしまいそうで。お母様も、まぁ! と、目を輝かせていた。
さっき、カトラリーはどうします? と聞かれてお箸を選んでおいたから、お箸と、あと食器も日本仕様。対してお母様は洋式のナイフとフォーク、白くて平たいお皿だ。
私の頼んだものには、付け合わせに卵焼き。あと、おひたしとたくあんも付いていて。
「いただきます」
その声に、お母様も同じようにいただきますと手を合わせた。実は、この世界のごはんの挨拶は違うらしい。お祈りのポーズみたいに両手を組んで、「祝福の女神に感謝を込めて」と言うらしい。
でも、私の挨拶を見て皆さんあわせてくれている。いいのかな、と思ったけれど楽しそうにやってるから何も言えなかった。
そして、お茶を注がれたお茶漬け。口に入れると……
「ん~~~~っ♡」
はぁ~~~美味しい♡ そう、これよこれ! 私が求めていた味は!
何か、一気に地球料理(?)の味が蘇ってきた感じ。あ、これじゃ分かりづらいか。言葉では表すことが出来ない感覚。とりあえず、美味しい! 懐かしい味!
……はっ! ダメダメダメ、これじゃ貴族令嬢としてはしたない。怒られちゃ……
と、思ったら。目の前のお母様はクスクスと笑っていて。
「あの、ごめんなさい、お母様」
「いいのよ、自分の娘のこんなに嬉しそうな姿を見て喜ばない親はいないわ。好きなように食べなさい」
「あ、ありがとうございます!」
卵焼きも出汁巻き卵だったらしく、出汁がとってもきいてるし、おひたしも最高。漬物なんていい感じに漬かってていくらでも食べれるかも。あ、食べ過ぎは禁物だけどね。はぁ~天国だわぁ。
けど、顔がだいぶ緩んじゃっていた所を、従業員の妹さんが見ていてちょっと恥ずかしかった。
「ごちそうさまでした」
「ふふ、ごちそうさまでした」
あっという間に食べ終わってしまった。いつもは結構ゆっくりなんだけど、とっても楽しみにしてた和食だったからだよね。
はぁ、また来たいなぁ。と思っていたら、今度は何か私達の前に並べられた。これは……
「デザート、おまけです」
「えっ、いいんですか?」
「えぇ、あんないい食べっぷり見ちゃったらおまけしたくなっちゃいますよ」
「あ……」
ちょっと、恥ずかしいな。
目の前にあるこれは、よく知ってる和菓子。〝ようかん〟だ。これ冷やすと美味しいんだよねぇ。ようかんはもちろん、あんこだってだいぶ食べてなかったからなぁ。
とっても風情のあるお皿に乗せられていて、和菓子用のフォークも付いている。スッとフォークが入っていって、簡単に切り取ることが出来た。
パクリ、と口に入れると……
「ん~~~~♡」
ようかんだぁ! こしあんの水ようかん! あんこの味もちゃんとしてて、つるつるしてて、あっさりした甘さで最高です!
「緑茶ととっても合うわね、美味しいわ」
「この他にも、栗ようかん、抹茶ようかん、芋ようかんなどがあります。もしよかったら特別にお持ち帰りをご用意しますが、いかがですか」
「あら、いいの?」
特別に、だなんて嬉しすぎる! そしたら、お屋敷の皆さんやお父様にも食べてもらえるって事だよね!
「いいわね、じゃあいただこうかしら」
「かしこまりました!」
わぁい、そしたら緑茶も買わなきゃ。他の商品も沢山選んじゃったから大荷物だ。あはは。
では、こちらもどうぞ。と紙袋を渡してくれた。ちゃんと取っ手のついた紙袋だ。こちらでは、取っ手のついていない袋が主流だから珍しい。きっとその異世界の方が考案したものなんだろうな。
そして、中身は……
「お、米だ……」
「はい。炊き方が難しくてお店に並べられなかったんですけど……」
けれど、思ってしまった。どうしよう、困った。
「あの、すみません」
「え?」
「その、私、機械? 以外で炊いたこと、なくて……」
「えっ」
え、もしかして日本人なら普通に炊けるって思っちゃってる? あ、でもお二人のおじい様の時代に炊飯器がなかった可能性がある。それなら、そう思うのはおかしくない。
「その、ですね。私の時代だと、炊飯器っていう機械があって、洗ったお米とお水を入れると炊いてくれるんです。一家に一台ある家電でして……私も、それを使ってたので……」
「あ……す、すみません……」
「あ、でも〝始めちょろちょろ中ぱっぱ〟は知ってますよ!」
「……ん?」
あ、通じなかった?
やっちゃった、気まずくなっちゃった……ごめんなさい。だけど、すかさずお母様が一言。
「じゃあ、作っちゃったらどう?」
「え?」
「炊飯器、魔道具で作ったらいいじゃない。ほら、今レスリート卿にお願いしてるでしょ? 一緒に作ってもらいましょうよ」
きっと喜ぶわよ、とニコニコするお母様。もう一つだなんていいのだろうか。頼みすぎじゃない?
「で、ですがご夫人、それは、需要がないのでは?」
「大丈夫よ、そこは心配しないで」
後日、お話をさせてちょうだいとお母様が言っていて。今日はここで帰ることになってしまった。
「お母様、何を……?」
「いいのよ、これはビジネスだから」
ビジネス、ですか……?
結局、お母様は最後まで教えてくださらなかった。
持ち帰ったようかんは、中に三種類入っていてどれも美味しかった。お父様もとても絶賛していて、特に抹茶ようかんが好みだったようだ。