目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

◇37 桜もち

 私の立ち上げたブランド【クローバー】も毎回毎回完売。大盛況である。最近は、簡単に作れる小さな栞を作る事にした。

 アクセサリーに使えなさそうな大きなお花を、ラミネートを作って頂いた時から、栞にして作り溜めていた。

 この星では付箋紙とかないから、本や資料に挟むものは栞くらいしかないらしい。だから販売してみたんだけど、それも瞬く間に完売してしまったのだ。

 普通に仕事とかで使う人や、それをプレゼントとしてお手紙の封筒に一緒に入れて送る人もいるみたいで。だからとっても嬉しくて頑張っている。お母様にはやりすぎはダメと怒られたりしているけれど。

 昨日も……


『明日はお休みしなさい』


 と、強く言われてしまったので今はお庭探索をしています。今日はずっと家の中にいる予定だから朝から着物を着ている。コルセットするよりこっちの方が断然楽だからだ。

 だから外出とかしないときはいつもこれ。マリアも着物の着付けはだいぶ上手になったみたい。今はもうお手の物だ。

 え? 【なかむら】に行かないのかって? 今日は定休日なんだな~。残念。でも、きっとやってたとしても行かなかったかな。だって、この前のを見たらね。大変そうだったから邪魔したら悪いでしょ。

 ちょっと寂しいとは思うけれど、仕方ないよね。

 本当は、お兄様とも、カリナとも行きたいんだけど……お兄様は忙しい人だし、この前話してみたらカリナはまだあのお店の事は知らなかった。一緒に行こうね! と約束したけれど、いつ行けるだろうか。

 新しい従業員さんが入るって言ってたから、その後にした方がいいよね。


「おぉ、やっぱり可愛い」


 殿下にいただいたポプランの花。お庭に植えてもらったんだけど、やっぱり可愛い。とっても可愛い色ばかりで、花びらが何枚も重なっててふんわりとした感じ。これは、押し花では表せないかわいらしさだ。

 あ、殿下といえば。実は昨日手紙が王城から届いた。それは、王妃様からのもので。

 その内容には、私がデビュタントをする際には私がパーティーを開いてあげるという内容だった。王妃様主催のパーティーでデビュタントだなんて緊張でどうにかなってしまいそうだ。だから、今お母様と要相談中。

 それともう一つ。お茶会も、もしよかったら開いてあげるわ、と。気軽に話せそうなご令嬢を選んで招待させてあげる、だそうだ。

 それを聞いたお母様はだいぶお困りだった。私もだけど。どうしたものか。

 やっぱり王妃様は私を王太子殿下の婚約者にしたいと思ってるみたい。あ、国王陛下もか。でも、殿下本人には想い人がいてその意思はない。もちろん私にもない。そんな大役、私には務まらない。

 だって、今まで貴族とか何だとかってものと無縁の場所で生活してきた。しかも、あまり学校に通えず義務教育もちゃんと出来てない。

 そんな私が婚約者、更にはこの国の王妃だなんて無理無理。絶対無理だ。

 でもなぁ、どうやってお断りしようか。



「アヤメ」


 私を呼ぶ声に、振り向いた。私を呼んだのは、タクミ君だった。あ、コックさんのレッスンで今日も来てくれてたんだ。いつもありがとう。


「久しぶりだな」

「あ、うん、そうだね」


 彼は何か籠を持っていて、私に渡してくれた。何だろう、と中を覗いてみると、これは……


「桜もち!」

「正解。後で食べてみて」

「うん! ありがと!」


 わぁい、桜もちだ~! 桜もちだなんていつぶりかな、何年ぶり、ってくらいだもんね。早速今日のティータイムで緑茶と一緒に食べよ!


「最近、忙しい?」

「え?」

「店に全然来なかっただろ」

「あ……」


 まぁ、そうだよね。いつもなら5日に一回は行ってたから。長くても10日に一回くらい。行きすぎだとは思っているけれど、でもやっぱり私は日本人らしく、どうしても行きたくなってしまう。

 屋敷のコックさんが作ってくれる時はあるけれど、でも、あの店内の雰囲気、あの雰囲気を味わいたいのもある。私が稼いだお金だもん、いいよね。

 一応、忙しくはあった。私の新しい事業である【フラワーメール】も始まったし、【クローバー】の方もあるし。だけど……


「……だって、お店忙しいでしょ?」

「えっ?」

「こうやってタクミ君来てくれてるから、私は家で食べれるし。だから、新しい従業員さんが入ってから行くね」


 今日のごはんも楽しみだな、と言ってはみたけれど……タクミ君は黙ってしまった。私、何か悪い事言ってしまったのだろうか。あ、もしかしてお店の売り上げとか? 私やマリアとジルベルト3人分だもんね。


「それじゃ意味ないんだけど」

「え?」

「めっちゃ美味そうに食べるアヤメの顔見れなきゃ意味ないんだけど」


 ……え? わ、私の顔……?


「だからその時食べたいもん聞いて作ってんの。それじゃなきゃあんな忙しい時にわざわざ厨房出て聞きに行かねぇよ」


 あ……え? ま、まぁ、この前だって忙しいにもかかわらず出てきて聞いてたし……結局メニューに書いてあったものにしたけれど……


「だから遠慮すんな」

「……」

「営業終わりの時でもいいからさっさと来い」

「……」

「返事」

「……は、い……」


 そのまま、じゃあまたな、と言う彼を見送ってしまった。

 ……私の、顔……?

 美味しそうに食べる、私の、顔……?


 ……顔っっっ!?!?

< 37 / 115 >

この作品をシェア

pagetop