目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

◇38 タクミside

「ちょっとおにーちゃーん、何よその顔」

「……ほっとけ」

「いやいや無理だって」


 夕飯のハンバーグを食べながら不満顔を見せてくるナナミ。煩いな、黙って食え。

 俺らの住まいは、店の隣の家。と言っても店の倉庫もあるからちょっと大きい。まぁ実家の屋敷よりは小さいけど。

 今日も店は慌ただしかった。その中には、貴族の方々も何人もいて。我儘な人達もいた。

 まぁ、何とかやり切ったってとこか。

 もうそろそろで従業員が2人増えるから、それまでの辛抱だ。……まぁ、癖の強すぎる奴もいるけど。

 今の営業は昼間だけ。だから夜営業も考えてるところではある。4人ではたして回せるだろうか、というところではあるけど。


「あ、それとも何? アヤメちゃんが来てくれなくて拗ねてんの~?」

「……」

「……え、マジ?」

「もうちょい醤油だったな」

「はぐらかすな!!」


 つい、言っちまった。

 だって、アヤメんちのコックからアレ聞かされたから。

 お嬢様の所に毎日沢山のお手紙が来てるんですよって。しかも、その殆どが釣書。縁談話って事だ。

 アヤメは異世界人、しかももうあの歳で凄い事業を2つも立ち上げて成功させてる。そして、この国一の公爵家の令嬢。喉から手が出るほど欲しい人は沢山いるに決まってる。

 アヤメはもう16歳。成人していて結婚も出来る。女性の中で結婚するのはだいたいそれくらいの歳だ。まぁまだ社交界に出てないみたいだけど、近いうちに出る事になる。

 じゃあ、結婚したらここに来ることが難しくなるんじゃ? そう思った。……いや、それだけじゃないけど。

 だから、持ってきていた桜もちをコック達に渡さず、アヤメに会う建前で自分から渡しに行った。

 ただ、店に来い、とだけ言えばよかったのに。あそこまで言ってしまうとは自分でも正直びっくりしてる。でもまぁ、来てくれればいっか。


「お兄ちゃん聞いた? アヤメちゃんが立ち上げた【フラワーメール】」

「あぁ、手紙を代わりに届けてくれるんだろ?」

「そーそー、その手紙に貼る切手? お花柄なんだって! 私買ってみようと思ったんだけどさぁ、もう売り切れてたんだよね~。も~レターセットは用意したのにぃ~!」

「お前がちんたらしてるからだよ」

「煩いなぁ~!」

「てか誰に送るんだよ」

「アヤメちゃんだけど」

「あっそ」


 ほんと、アヤメは凄いやつだよな。こんな事まで実現させちまったんだから。一体どこまで行くのか全く分からない。

 これで大変になって体調崩さないか心配ではある。今大丈夫かな、なんて思っても分からないけど。



 アヤメは、今日も、次の日も、その次の日も来なかった。やっぱまだ遠慮してんのかな。もうちょっと言っといたほうが良かったか、次アドマンス家に行くのいつだったかな、なぁんて思っていた時。

 彼女は来た。


「こん、にち、は……」


「アヤメちゃ~ん!!」


 営業終了のタイミングで恐る恐る入ってきた。やっぱり遠慮してたらしい、忙しいのが終わったこの時間に来るんだから。

 久々に会えてテンションの上がったナナミに、席に案内されていた。


「で、今日は如何いたしますか、ご令嬢?」

「……」


 超不機嫌じゃん。ほっぺ膨らませちゃってさぁ。まぁ分かっててやったけど。だから満面の笑みで返してやった。


「……チャーハン」

「ここ、和食店なんだけど」

「今食べたいもの作ってくれるんでしょ?」

「ま、確かにそう言ったな。おっけ」


 違うのにしろって言われると思ったのか、結構驚いているみたいで。何、俺らが知らない料理を選んでやるとでも思ったのか? 残念ながら知ってるんだよなぁ。じいさんに感謝だな。


「ナナミー、中華鍋どこだっけ」

「え? 中華鍋?」

「そ。ご令嬢がチャーハンをご所望だからさ。あ、あった」

「お兄ちゃん、何したの」

「お前さぁ、何でもかんでも俺のせいにすんな」


 まぁ、正解なんだけどさ。友達に自分の事ご令嬢って呼ばれたくないのよく知っててああ言ったし。美味そうに食う顔見せろ、なんて事も言ったし。

 てか、何、知らないもん注文して困らせたかったわけ? 可愛い事すんじゃん。


「……はぁぁ」

「何、お兄ちゃん」

「いんや、何でもねぇ」


 あんなの見たらさぁ、我慢できなくなるじゃん。全く……

 桜もち渡した時だって、あのジルベルトって人とおかずわけあってた時だって。気にくわなかったというか、何というか。だから、何かあったらつい何かを言ってしまいそうでちょっと不安な所ではある。


 俺の作ったチャーハンを食べたアヤメは言わずもがな。さっきまで超不機嫌だったのに美味そうな顔に大変身していた。

 そう、見たかったのはこれだ。これを見ると、料理作ってて良かったって思えるんだ。ちゃんと、俺は美味いもん作れてるんだって思える。

 俺が見てる事に全く気が付かないアヤメ。それだけ夢中になって食べてくれてる。それがとても嬉しいんだ。


「お味はいかがですか?」

「……美味しいです」

「そりゃよかったよ」


 何があっても、店から離れていかないでくれ、だなんて絶対無理だ。

 なら、俺はどうしたらいいだろうか。

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