目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

◇53 自分の気持ち

 今日はとってもいい天気。今は庭に来ていて、ここの庭師であるミレッドさんから切られてしまったお花を頂いた。あぁ、ちゃんと魔道具の日傘をさしてますよ。熱中症で倒れたら大変だもんね。

 さ、すぐ戻ってこれを押し花にでもしようかな。そう思っていた時、とある人物が視界に入ってきた。


「あ、アヤメ」

「こんにちは、どうしてこんな所に?」

「ちょっと頼まれごと」


 何頼まれたんだろう。あ、もしかしてメイドさんに? いや~イケメンさんは毎日大変ですな。


「その花は?」

「これ? さっきもらったの」

「ふ~ん、誰に?」

「ミレッドさん」

「……あいつか」


 タクミ君、ミレッドさんの事知ってるの? あ、さっき会ったのかな。同じくらいの年齢だから話しやすかったのかも。

 でもこの花、普通に渡してくれればよかったのに、綺麗な紙に包まれて可愛いリボンまで。これから解体されて押し花になる運命なのに勿体ないよね。

 ……ん?


「タクミ君?」

「……今日のお茶の時間、何食べたい?」

「ティラミス」

「何それ」

「スポンジとクリームを何層も重ねたケーキ。あとココアパウダーと、コーヒー?」


 確かコーヒーも使ってるって聞いたような、聞かなかったような。残念ながら私はパティシエではないから分からないけれど。


「へぇ~、そんなのあるんだ。さすが食いしん坊ご令嬢はよく知ってるねぇ」

「うるさいなぁもう」

「あははっ」


 馬鹿にしてぇ……!! まぁ知らないって分かってて言ったけどさぁ。

 ふん、と歩き始めると体調を聞かれて。大丈夫でーす、と答えたけれど近くの東屋に行こうと連行されてしまったのだ。過保護がここにもいた。あ、お母様に任務を課せられてたんだっけ。この傘があるから全然平気なのに。

 は~、いいねここ。涼しい。それに心地いい風が吹いてるからもっといい。


「ねぇねぇ、まだお店に出してない料理で何が作れるの?」


 私いつもメニューにない料理を無茶振りで頼んじゃってるからなぁ。他に何が出来るんだろ。


「そうだな……カレーとか?」

「美味しいよね~」

「でもあんま見た目良くないから店には出せないかな」


 あ、そっか。独特な見た目だもんね。匂いも独特だし。ちょっと戸惑ったりしちゃうかも。美味しいのにもったいないなぁ。あ、でもカレーうどんとか食べたいなぁ。私好きよ? 結構。

 私カレーは甘口、ギリギリ中辛までならいける。これ言ったら絶対またおこちゃまって言われそう。だから黙ってようかな。


「美味しいのに勿体無いね」

「でもカレーは好き嫌いあるしな」

「でもタクミ君達が作ってくれるの何でも美味しいよ? 最初は抵抗があっても一口さえ食べればもう虜でしょ!」

「凄いこと言うな、お前」

「私、本当のことしか言ってませんけど? 今日の朝ごはんも、昨日も一昨日も。とーっても美味しかったよ。美味しいご飯を食べると幸せを感じるでしょ? もう毎日幸せだもん!」

「……」


 あれ、なんか、黙っちゃった。なんか悪いこと言ったかな。オーバーに言い過ぎちゃった?


「タクミ君?」

「お前さぁ大袈裟すぎだっつの」

「大袈裟じゃないし!」

「だーまーれ」


 ぷにぷにと私の両頬を摘んできたタクミ君。やめろ、痛くはないけど。レディに向かってこんなことするとは、紳士の風上にも置けないな。

 反撃しようとタクミ君のほっぺを摘もうとはしたけれど……手が届かなかった。


「ふぇ、ながふぎ(手、長すぎ)!!」

「残念でし…うわっ!?」


 ぎゃっ!?

 もうそろそろで届く、と思った次の瞬間、バランスが崩れ……前に倒れてしまった。タクミ君が受け止めてくれたけど、は、鼻、痛い。


「ごめん」

「……アホ」


 アホじゃないし。タクミ君が手が長かったのが悪いんだし。私悪くない。

 よいしょ、と起き上がった、ん、だけど……


「あの、手、離してもらってもいいですか」
 
「……いや、収まるなと思って」

「チビだって言いたい?」

「一言も言ってないけど?」


 なんか、抱きしめられちゃってるんですけど。離してもらいたいんですけど。


「……どーしたの」

「……」


 肩に頭、乗っかってきて。勘違い、かもしれないけどそうじゃない気もするんだけど、心臓、速くありません? タクミ君よ。


「……アイツに花貰ったの、初めて?」

「え? あ、うん」

「……」


 ミレッドさんがくれた花のことだよね。いきなり何故この話?


「どうしてあんなもんお前にあげたと思う?」

「切られちゃったお花を押し花にしたいってお願いしたの」

「じゃああんな花束にする必要ないだろ」

「うん、まぁ……可愛いから、とか? それか丁度余ってたんじゃない?」

「お前なぁ……それわざとか」

「何が。それより離してよ」

「はぁ、だから嫌なんだ」


 ……ん? 嫌だ? もしや、ミレッドさんと喧嘩でもした感じ?


「お前鈍すぎ。わざとかってくらい。だから目が離せないんだよ全く」

「は?」

「あの伯爵の息子の時だってナナミに任せときゃいいのに出てきやがって、お前の護衛のやつだって距離近すぎだし馬に一緒に乗っちゃうし、何おかず分け合ってんだよ。ここの騎士団の奴らもあの庭師も、お前の事どんな目で見てるのか気付いてねぇし。危なっかしくて我慢出来ねぇよ。お前のせいだ」


 ぺらぺらと私の説教? が止まらないタクミ君。


「なぁにがお嬢様が天使だ。美人なのは分かるけど鼻の下伸ばしてんじゃねぇよそれでもここの使用人かよ。仕事中なら仕事しろ」

「え、あの、ちょ……」

「しかもお前宛に釣書が毎日来てるって? はぁふざけんな、どうせお前に会った事ない奴らだろ。アヤメの事なんだと思ってんだよふざけんな」


 何でそれ知ってるの。言った事あったっけ。


「お前のせいで我慢できない」


 ……何か、私のせいにされちゃってるんですけど。私何かしたかしら。


「言わないつもりだったのに、欲が出ちまうだろ」

「あの、タクミさん……?」

「……俺思ったんだよ。アヤメ、いつかはどっかに嫁いで店に来れなくなるかもしれないんじゃないかって」

「あ……まぁ、どうなるかは分からないけれど、いけるように努力はするよ?」


 まぁ、一生独身という選択肢もあるにはあるけど、どうだろ?

 でもお母様達は私の気持ちを尊重してくれるって言ってくれたから、自由に選んでいいって事だよね。

 まぁでも将来のことだし今はそういうのはいいかな。


「そんなの嫌なんだよ」


 ……え?


「どっかに行っちまう事も、来たとしても男連れてくる事も、俺無理だ」

「……」

「……これ言ったら、今まで通りの関係じゃなくなっちまうのは分かってる。けど……我慢出来ない」


 ……もしかして、そういう事? タクミ君が言いたい事って。あ、いや、もしかしたら違うんじゃ? とも思ったけれど、それは正解だった。


「俺、アヤメの事が好きなんだ」

「……」


 まさかそう言われてしまうとは。数分前の私には予測不可能な事だ。どうしたらいいのだろうか。

 何と言っていいのか分からず、しぃ~ん、としてしまって。とりあえず……


「タクミ君」

「……」

「お~い」

「……」

「顔隠して黙り込むのはずるくありませんか~?」

「……」


 駄目だなこりゃ、喋ってくれない。仕方なく、タクミ君の頭に手を乗せた。ぽんぽん、と。


「……余裕だな」


 あ、喋った。復活?


「そうでもありませんよ~」


 タクミ君がそう思っていたとは知らなかった。そういうのってこの前ナナミちゃんに言った通りよく分からない。けど……


「私さ、恋人いない歴=年齢なの」

「……え」

「意外?」

「まぁ」


 あ、そんな感じに見えてた?


「だからさ、よく分からなかったんだけど……さっき、言ってくれて、まぁ、その……」

「はっきり言え」

「はい、嬉しかったです」

「で?」


 ちょっと待って、タクミ君、怒ってらっしゃる? さっき説教されたし。でもしょうがないじゃん。これしか言えないんだから。


「嬉しいです、けど……どうしたらいいのか分かりません」

「……はぁ?」


 いや、これ本当に分からないんだから。ならしょうがなくない?


「何か、凄く心臓ドキドキしちゃって、シモン先生に診てもらわなきゃいけないレベルで……」


 どうしたらいいのかと困っていたら、がばっと顔を上げたタクミ君。そして、手を取られて掌をタクミ君の胸に付けられて。丁度心臓の所。


「分かるか」

「え?」

「俺も心臓バクバクしてんの。もう病気レベル。どうしてだと思う?」

「……」

「アヤメと一緒にいるからだよ。自分の好きな子に触れられてるからこうなってんの。じゃあ、アヤメは?」

「え……」

「どうしてアヤメはドキドキしてんの?」

「……タクミ君に、言われたから?」

「それ、どういう事だかわかるか?」


 どうして、ドキドキする……? タクミ君、こんなにドキドキしてる……え、もしかして一緒? いや、でも、え……ん?

 好きとか、そういうのってこんな感じ? ナナミちゃんに伯爵家でそういう話したけど、そういう感じ?

 好き、かぁ……初めてだ。こんなの。ほら、初恋とかってなかったし。あ、でも小学生の頃病院の男性看護師さんの事好きだったなぁとは思ってたけど、話してて楽しいなぁとかそんな感じだったし。

 絵描いてくれたりしてさ。優しいお兄さんだったなぁ。あれ、たぶん家にある。取っておいてあると思う。結構気に入ってるんだよね。ウサギとクマと鳥描いてくれたんだよね。


「……おい」

「私の事、好きなの?」

「言ってんだろ」

「へぇ~」


 ぷにぷに、と彼のほっぺたを抓んでみた。あ、不機嫌になっちゃった。それがなんかおかしくてつい、ぷ、って笑ってしまった。あ、もっと不機嫌になっちゃった。


「私も一緒」

「俺と?」

「うん」

「気持ちも?」

「うん。私だってタクミ君自国に帰っちゃうの嫌だもん」


 だからそんな不機嫌な顔しないで、そう言いたかったけどその前に、また抱き締められてしまった。


「はぁぁ、良かった……めっちゃ嬉しい……」

「そんなに?」

「そんなに。じゃあ付き合っていい?」

「うん、いいよ」


 マジかぁ、と体重乗せてくるけどそんなに重くない。そんなに嬉しいの?

 そっかぁ、私の事好きでいてくれたんだぁ。ふふ、嬉しいな。

 付き合うって事は、他の人達より特別? あ、家族とは別なのは分かってるよ。その他の人達って事よね。特別かぁ。


「じゃあどこにも行くな、近くにいろ、他の奴らと喋るな」

「え”っ」

「は、無理だから俺にだけかまえ」

「あははっ、分かった。じゃあ私にもかまって」

「嫌って程かまってやる」

「ん!?」


 離されたと思ったら、顔が近づいてきて。キスをされてしまった。


「アヤメのファーストキスゲット」

「……」

「何、嫌だった?」

「……慣れてますね」

「何、嫉妬? 安心しな、俺もファーストキスだから」


 ……マジですか。こんなイケメンだから彼女の一人や二人いると思ってたんだけど。


「これからよろしく、アヤメ」

「あ、うん、よろしく、タクミ君」

「君いらないんだけど」

「やだ」

「なんで」

「やだからやだ」

「……」

「……ぷ、ふふっ」

「あははっ」


 なんてあほな会話してんだろ、って二人で笑ってしまった。君は付けるけどね。

 さて、ナナミちゃん達には何て言おうかしら。まぁ、追々?

 とりあえず、そろそろ屋敷に戻らなきゃ。長居しすぎちゃったし、タクミ君今日の夕食の準備もしなきゃだしね。あ、手伝っちゃう? やってみたい!
 
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