目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

◇73 天ぷら

 今日の朝、スフェーン王国の使者がこちらの邸宅にいらっしゃった。殿下からの伝言を持ってきてくれたのだ。

 今日王城の料理人達との顔合わせになるから様子を見に行ってやってほしい、と。まぁ、すぐにでも動かなきゃ時間間に合わないもんね。

 大丈夫かなぁ、と不安を抱きつつ馬車で王城に向かった。

 殿下は、王宮の門番の方に一言言っておいてくれたみたいで、すぐに厨房に案内してくれた。


 ん、だけど……

 何だろう、この不穏な雰囲気。

 タクミ、ナナミちゃん、ナオさん、リカルドさんと【なかむら】スタッフ勢ぞろいで来たみたいなんだけど……四人で話し合いをしてから何かにとりかかったみたい。

 それを見ていた私に、ナオさんは気付いたみたい。駆け寄ってくれた。ナオさん、いつも気遣って下さってありがとうございます。忙しいのに邪魔しちゃってごめんなさい。


「来てくれてありがとう、悪いんだけど、味見してくれない?」

「え?」


 あ、味見ですか?

 どういう事? と聞こうと思っていたその時、厨房の皆さんが私に気付いたらしい、邪魔するつもりじゃなかったんだけど、ご挨拶をした。


「突然来てしまい申し訳ありません、私、アヤメ・アドマンスと申します」

「このような場所に来て下さるとは光栄です」


 一応、私が来る事は知っていたらしい。見学をしたいらしいと言ってくれていたみたい。私の事は気にしないでください、と椅子だけ用意してもらった。


「料理長さん、料理判定はお嬢様にしてもらうのはいかがですか」

「……いいだろう、ではお嬢様、今から二つの料理を作りますのでどちらが美味しいか判定していただけませんか」

「え?」

「ただの腕試しです。こんな事に巻き込んでしまって申し訳ない気持ちはあるのですが、如何でしょう」

「あ、はい、私でよければ」


 と、いう事になってしまった。

 ナオさんに説明を求めると、タクミ達が来た時にいざこざがあったと教えてくれた。


「ふざけんな、ここは俺らの領域だ。余所者が入れるような場所でもねぇんだよ」

「はぁ? それはこっちのセリフだよ。こっちは王命を受けてここに来てんだ、邪魔するようだったら訴えるぞ」

「例え王命を受けていたとしても、お前らが出来る事なんてこれっぽっちもない。相手は他国の王族の方々だ、お前らみたいなひよっこに出来る事なんてこれっぽっちもねぇんだよ」


 と。タクミ達は他国から来た者達だし、男社会な領域にナナミちゃん達(?)女性もいる。だから怒ってしまったわけね。

 それで、タクミはこう言い放ったらしい。


「料理人なら口であーだーこーだー言うより料理で言え」

「いいだろう、ならお前達の異邦料理を食ってやろうじゃねぇか」


 と、いう事になったらしい。お題は『揚げ物』で、皆さん油を用意してるみたい。

 以前、スフェーンの王城でもこの手を使ったらしくて。だから今回もこれを言い出したみたい。


「それでね、アヤメちゃんにお願いがあるんだけどいい?」

「え?」

「アイツ、頭に血が上ってるみたいだから何とかしてくれない?」


 アイツ、とはタクミの事らしい。確かに顔が怖い。

 でも、何とかしろと言われても。何をすればいいのか聞いてみたら、小声でこしょこしょ。さ、頑張って! と見送られてしまった。頼まれてしまったのだからやらなきゃいけないし、と思いつつタクミに近寄った。


「アヤメ、嬢?」


 私に気が付いたタクミの背中を……思いっきり叩いた。そして一言。


「お腹空いた」


 ……ちょっと強く叩きすぎたかな。黙っちゃった。でも、今度は笑い出して。


「了解、期待しててください」


 王城の方々がいらっしゃる手前、いつもと同じような接し方ではないけれど、でも大丈夫そうな顔に戻ったから大丈夫かな。

 包丁のまな板を叩くリズミカルな音が聞こえてくる。というか、速い。油を用意している人達もいて。この世界では、コンロはガスじゃない。魔道具だ。一度【なかむら】の厨房に入った事はあるけれど、管がなかった。

 他の調理器具も魔道具のようなものが沢山。さすが異世界だ。ここでも魔道具登場か。

 あ、どちらも揚げる作業に入ったかな? 油の音がするし、良い匂いがしてきた。朝ご飯を食べた後だけれど、なんかお腹が空いてきたかも。


「おまちどうさん、アヤメ嬢」

「完成いたしました、アドマンス嬢」


 おぉ、ほぼピッタリ。意外と気が合う?

 これは……天ぷら!! こっちは……何だろう。衣が、白い。

 ではいただきます、とフォークでまずはここの料理人さんの方にナイフとフォークを入れた。中身は……お肉? 真ん中がちょっと赤いから、火の入れ加減がレアくらい?

 ナイフで切っている感覚的には、普通の焼いたお肉みたい。一口にカットして、パクリ、と口に入れた。

 ……肉汁? 火は入ってる、と思うんだけど……肉の味しかしない。味付けってしたのかな。ここからだと見えなかったから確認出来なかったけれど、たぶんこれ、味付けしてない。

 衣も、薄い。この味ってどう表せばいいのか分からないけれど……ちょっとこれ全部食べ切るのは無理かもしれない。


「これ、もしかしてソースあります?」

「え? ありませんよ。如何でしょう、肉本来の味を十分に引き出した揚げ料理です」

「うーん、ちょっと、私の口には、薄く感じます」

「え”っ」


 あ、なんか、ごめんなさい。

 さてさてお待ちかねの天ぷら!! 王宮の方々には悪いけれど、さっきからとても良い匂いがしてて早く食べたかったんだよね。何から行こうかな~! よし、君に決めた! エビだ! たぶん!

 皆さんが見ているから今日は優雅に行きますよ。ナイフでエビを切った瞬間サクっといい音が鳴って余計食欲をそそられる。では、いただきます!

 ん~~! 美味しい~~~!! サクサク感と中身のエビのぷりぷり!! 最初にかけた塩の味も見事にマッチしていくらでもいけちゃう!!


「え、尻尾までいくんですか?」

「エビに失礼」

「あははっ、流石アヤメ嬢!」


 パクパク食べてしまいあっという間になくなってしまった。あぁ、今度は天丼をお願いしちゃおうかな。

 あっ、王城の方々忘れてた。唖然として、口をぽかんとしていらっしゃる皆さん。私、悪い事しちゃったかな。でも、正直に言ったほうがいいよね。


「どーぞ」


 この方達用に揚げていた天ぷらをナナミちゃんが出すと、一目散にフォークを持ってくる料理人さん達。あれ、そこまでですか?

 そして、一口食べた瞬間に目を見開きバクバクと食べ始めてしまった。そのお陰でもうお皿はすっからかん。

 すみませんでした、と皆さんすごい勢いで謝ったのだった。

 
「アヤメちゃんが美味しそ~に食べてくれたお陰だよ~!」

「え、ほんと?」

「ほんとほんと。アヤメちゃん正直だからね~、助かりましたよ」


 でも、どうしてタクミはとっても不機嫌なのでしょう。という疑問に答えてくれたナナミちゃん。


「アヤメちゃんに中途半端な料理を食べさせたくなかったんだと思うよ。ほら、こっちにも丸見えだったじゃん?」


 あ、王城の方々が揚げ料理を作ってた所か。食べる時にあんな顔をしていたのはそのせいね。


「アヤメちゃん忙しくて全然こっち来れなかったから結構不機嫌だったのよ。だから余計ね」


 と、教えてくれて。私もずっと【なかむら】に行きたかったです。でも思わぬところで食べられたので私は満足です!

 実は私、その会食にも参加する事になってしまって。だから緊張はするけれどタクミ達の料理が食べられるのなら万々歳です。楽しみだなぁ。

< 73 / 115 >

この作品をシェア

pagetop