目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

◇82 初めてのしゅうまい作り

 サミット最後のパーティーの終わりごろに彼とした約束。サミット終わったら一日付き合え。それが今日ようやく果たされる事となった。でもだいぶ時間が空いてしまったから申し訳ない気持ちも一応あるにはある。


「こんにちは、タクミ」

「よっ」


 いつも、わざわざこっちまで来てくれる。巡回馬車があるからそれに乗ってきてくれてるみたいなんだけど、お金かかっちゃうからウチの馬車で迎え行くよって言っても毎回断られてしまうのだ。

 今日も、行き先は御者にだけ教えて私には教えてくれない。毎回どうして教えてくれないのか。でも聞いても秘密って言われてしまう。


「忙しかった?」

「え?」

「どうせお前の事だから今日を空けるため仕事昨日まで頑張ったんじゃないかって思っただけ」

「いや、そんな事ないよ。お母様に、焦っても意味ないって言われちゃったし」

「あぁ、【フラワーメール】か」

「そう」


 まぁ、色々と問題も出てるし、解決は出来ているけれどルートを広げたからもっと起こる可能性が高くなった。どうなるかちょっと不安ではあるけれど。

 お疲れさん、と頭を撫でてくれたけどこれ絶対子ども扱いされてない? ……あれ?


「この道……もしかして【なかむら】?」

「残念、その()

「えっ!?」


 と、隣って言ったら……タクミ達の家!?


「嫌だった?」

「あ、いや、嫌な訳じゃないんだけど……ナナミちゃん、達は?」

「仕事。今5人だから一人ずつ休み入れてんの」


 なるほど、だからこの日だったのか。だって今日お店の定休日じゃないもん。

 じゃあここで降りるぞ、と【なかむら】より離れたところで馬車を下りた。御者の方にはこの時間に迎えに来てくださいってお願いをして帰ってもらい、私達はタクミ達の家にそぉーっと入ったのだった。バレたら煩いから、だそうだ。

 【なかむら】の方、結構行列出来てたけど、いいのかな。なんて思いつつ、お邪魔しますと入らせてもらった。

 家の中は、お店と同じような感じ。日本のような作り、なのかな? あ、スリッパがある!

 これに履き替えて、とお客様用? のスリッパを貸してもらった。うんうん、なんか日本に戻ったような気分。


「今日さぁ、昼飯一緒に作りたいなって思ったんだ」

「お昼ご飯?」

「だってキッチンって言ったらアドマンス邸か店のしかないだろ? でも店は今使えないし、折角のデートなのに他の奴らに邪魔はされたくないじゃん」


 あ、まぁ、そうだけど……


「スリッパ、落ち着かない?」

「いやいや、むしろ日本に帰ったみたいで嬉しい」

「そりゃよかったよ。ほんとは畳が欲しかったんだけど……」

「畳!?」

「と言ってもなんちゃって畳だけど。領地の屋敷に畳の間(・・・)があるんだ。そこはスリッパなしで正座なんだけど、それ持ってきたかったんだよね。でも距離が距離だから無理だろ?」

「あ、確かに」


 まさか、畳があったなんて!! 日本人に長年愛されてきた畳ですぞ!! あぁ~畳に会いたい!! というか、裕孝さん畳まで作っちゃうなんて凄い!! 一体日本でどんな暮らしをしていたんだろう、帰ったら職業聞いてみようかな。あ、料理人かも。じゃあ何で畳の作り方知ってたんだろ?

 すぐ作る? と言われて、うん! と答えた。んじゃこれ、とエプロンを渡されて。あらシンプル。もしかしてこれナナミちゃんの?


「じゃん、これは一体なんでしょうか」


 冷蔵庫から出されたのは……生地? 小さいけれど、これは?


「お昼ご飯でしょ?」

「そう、お昼ご飯。デザートではございません」


 この四角くて薄い生地……あっ!!


「しゅうまい!!」

「せ~かい!」

「いやったぁ!」


 わ~い! しゅうまい食べられる! しかも作れるんでしょ? やった事ないから嬉しい!

 もう皮と中に入れるタネは出来ているらしい。もう後は包むだけ。タネも一緒に作りたかったなぁ、残念。でもきっと包丁は使わせてもらえなかったよね。


「よろしくお願いします、先生!」

「よろしい、じゃあ手洗うか」


 キッチンも何となく日本の家庭のような感じ。玄関開けたら日本なんじゃないかなって思っちゃうくらい。

 日本かぁ、ママに会いたいなって気持ちはあるけれど、でも帰れない事は知ってる。だから私こっちで頑張ってるよ! って気持ちだけは伝えたいかな。


「結構あるね」

「俺らの夕飯も兼ねてるんだな~。だからアヤメは俺らの昼飯、俺は夕飯分な」

「夕飯って4人分?」

「そ。リカルドとナオは違うとこに住んでんだけど、ほぼ毎日こっちで飯食ってから帰るから4人分なんだ」

「へぇ~……勝てるかな」

「さぁ~どうだろ」

「頑張ります」


 渡されたのは、スプーン。本当なら専用のものがあるらしいんだけど、ないからこれで代用するらしい。

 親指と人差し指で丸を作り、その上に皮を乗せる。


「この真ん中に具材を乗せて、包むように握る」

「こう?」

「そうそう、上手いじゃん。残った皮はタネの方に押し付けて、下の部分を平らに整えて」


 ん~難しい。こんな感じ?


「OK」

「やった」


 でも、タクミの綺麗。並べたくないのでお皿の反対側の端に並べた。まぁプロと比べたらいけないのは分かってるけどさ。でも私のが今日のお昼ご飯になるという事はタクミも食べるって事。頑張んなきゃ。


「しゅうまい知ってたんだね」

「まぁ、中華料理? はいくつかしか教わってないけど。ほら、チャーハンとかぎょうざとか」

「ぎょうざも! じゃあぎょうざも一緒に作りたい!」

「はいはい、また今度な」

「約束ね!」


 じゃあ、裕孝さんは一体いくつの中華料理を知ってるんだろう。昭和の人だから、私が食べた事のある、裕孝さんの知らない料理もあるかもしれないよね。何だろう?

 そんな感じで話しながら作ったら、大体同じ時間で終わった。二人分と四人分。やっぱりプロは違かった。しかも私のはタネの量が均一じゃない。多かったり少なかったり。


「すみません」

「いいって、初めてにしては上出来だって」

「ありがとうございます……」


 でも蒸す時間が一つ一つ変わっちゃうじゃん。大変にしちゃってごめんなさい。

 しゅうまいを蒸すセイロ? を用意したタクミ。私、セイロなんて実物は初めて見た。これで蒸すんだ~。

 しゅうまいを並べる大役を承った私は、下にキャベット? キャベツなるものを敷いて、その上にしゅうまいを並べた。こんな感じかな? そして蓋を閉め、ボコボコ沸騰したお湯の入っている鍋の上にタクミが重ねてくれた。


「よし、後は待つだけ」

「はーい」


 タクミが他の料理を仕上げている間、私はずっとセイロを見ていた。というか、見とけ、って言われてしまった。見てるだけ? と文句を言いそうになったけれど、果たして私は何が出来るだろうかと考えた時元気よく返事をしてしまったのだ。

 ん~、しゅうまいの良い匂いがしてきた。タクミの方からも良い匂いがしてくる。やばい、お腹空いてたけど鳴りそう。ちょーっと大人しくしててね、私のお腹。


「そろそろかな」

「出来た!」

「まーだ」


 セイロの蓋を開けた瞬間に広がった美味しそうなしゅうまいの香り。あぁ、これだけでご飯いけちゃいそう。


「ほら。熱いから気を付けな」

「いただきます!」


 お箸で一つ取ってくれたしゅうまいを、フーフーさせてからぱくり! ん~美味しい! ちゃんと火は通ってるし肉汁も出てて最高。何も付けなくてもこのまま食べられる!


「その顔じゃ、ちゃんと出来てるって事か」

「美味しいです!」

「そりゃよかった」


 火を止めて、お皿に盛り付け。キッチンの向こうにあるテーブルに並べた。

 実は私の専用お箸があるんです。お出かけする時お弁当だったりするから、専用のお箸を用意してくれたの。今日もそのお箸を用意してくれたみたい。


「いただきます」

「いただきます!」


 しゅうまいの他にも、スープやナムルも用意してくれた。もうどれも美味しすぎる! どうしよう、ほっぺた落っこちちゃった。


「自分で包んだしゅうまいのお味は?」

「タネはタクミだから美味しいに決まってるじゃん」

「愛情込めて包んだんだろ?」

「まぁそうだけど……タクミが包んだのも食べたかった」

「俺はアヤメの食えて幸せだけど?」

「そうですか~」


 ずるい、そういうとこずるい。最近いつもこんな感じじゃない? なんか悔しい。


「あ、そうだ。父上から手紙が来たんだけどさ、アヤメに会いたいって言ってた」

「ナカムラ男爵様が?」

「うん、直接お礼言いたいってさ。ほら、アヤメのお陰で色々と商会が儲かってるから。米の需要がありすぎて領地の奴らは大変だけどさ。でもその利益で領地拡大も出来て領民達も助かってるんだ。だからアヤメには本当に感謝してるんだよ」

「いや、でも私一人だけの力ってわけじゃないよ。ナカムラ家の皆さんの頑張りもだし、アドマンス家の方々やレストリス侯爵様とか、色々な人達の力があっての事だよ」

「でもそれを動かしたのはアヤメだろ?」

「う~ん、そうかな?」

「過小評価すんなって」


 まぁ、皆さんに貢献できたのであれば嬉しいかな。今まで色々とお世話になってきたし。お役に立てて光栄です。

 お昼ご飯はあっという間に食べ終えてしまった。美味しいものって早く食べ終わっちゃうよね。あ、ちゃんと噛んで食べたから安心してね。


「んじゃデザートな」

「えっ」


 冷蔵庫から出してきたのは、これは……ティラミス!?


「えっ、なんで!?」

「教えてくれただろ、ティラミス」


 あ、そういえば領地で教えた。でもただスポンジとクリームとココアパウダーとコーヒーとしか言ってない。

 でも見た目ちゃんとティラミスだ! 一番上にココアパウダーもかかってる!


「言っただけで作っちゃったの!?」

「何となくで。コーヒーは手元になかったから領地から持ってきてもらって、何回も試行錯誤して作ってみた」

「凄い!」

「俺は食った事ないから味は分かんないけどな。ほら、本物食った事あるんだから感想聞かせて」

「いただきます!」


 切手取り分けてくれたティラミスを、フォークで一口大に。一口口に入れると……甘ぁ~! 美味しい!

 だけど……何か足りないかも。私、何か言い忘れた様な、ないような……何だっけ。でもいいや、これはこれで美味しいもん!


「どう?」

「美味しい!」

「本物とどう?」

「ん~、ごめん、何か言い忘れたけど何を言い忘れたのか分かんない。でもこれはこれで美味しいし、私は好きだよ」

「マジか。でも美味いならそれでいいや」


 なんかごめんなさい、実を言うとあまりティラミスは食べた事がないんです。何回かは食べた事あるだけで。でもこれ美味しいです。スプーンの手が止まらない。

 タクミは、コーヒーをどう使うかがよく分からなくて何回も作ったみたいで。ナナミちゃん達もたくさん食べたらしい。そんなに頑張って作ってくれたなんて嬉しいな。また作ってくれるかな。

 それから他愛のない話で盛り上がっちゃって馬者さんが迎えに来てくれる時間になってしまった。


「最後までナナミ達にバレなかったな」

「あはは、お店忙しそうだったし」

「そりゃそうか。じゃあまたな」

「うん、またティラミス作ってね」

「なんちゃってティラミスな」

「あはは、じゃあバイバイ」


 屋敷まで付いてきてくれて、屋敷前で別れた。楽しかったなぁ、と思ったのもつかの間、帰ってきたお父様は終始笑顔を向けてきていた。目は笑ってないけれど。デートした事は知ってるみたいだけど、タクミ達の家に行った事は言わないでおこう。

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