目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

◇85 最高傑作

 あれから、何度もリアさんはアドマンス邸に足を運んだ。こちらに来てはパトラさんとで色々と話し合いをし、持ってきた試作品? を私に着せた。

 どうしてまだ私がマネキンをしているのかは疑問ではあるけれど、着せてもらうものはどれも素敵なものばかり。だから途中で違うモデルさんに、だなんて言い出せなかった。

 でも、二人はあまり満足にいってないらしい。私を囲っては、ん~、と考え事をしていた。


「色、変えるべきかしら」

「アヤメちゃんはほっそりしてるからねぇ、もっとお肉付けなきゃ」

「え”っ、じゃ、じゃあ他の人に……」

「何言ってるの。貴方じゃなきゃ意味ないじゃない」

「え、でも、私これ着てどこに行けばいいんです?」

「え? レストリス侯爵家のパーティー」

「……え」


 ん? レストリス侯爵家のパーティー?


「何かあるんですか?」

「え? このドレスの為に決まってるでしょ?」

「え……」


 わ、わざわざこのドレスの為に開く、と……ま、まぁでも異世界人であるパトラさんとこの国一のブティックのコラボ作品のお披露目って事だし、当たり前か。


「でも、こんな素敵なドレスを私なんかに……」

「アヤメちゃんはね~、今はもうウチの看板モデルなのよ?」

「え”っ」

「ほら、デビュタントのドレスもサミットのドレスもウチのだったじゃない? いつもアヤメちゃんに着てもらってるドレスは新作ばかりだから、皆貴方の着るドレスを見て同じものが欲しいって声を揃えてウチに来るの」

「……」


 うん、確かに、ウチの新作よ~! って言って持ってきてくださるけれど、まさかこんな事になっていたとは。今更ながらに恥ずかしい。私、ちゃんとマネキン出来てただろうか。他の人がやった方が良かったんじゃない? ほら、お母様とか。美人だし背も高いし。


「だから今回もよろしくね♪」

「……はい」


 とは、言えなかった。そんな期待のまなざしを向けないでください。

 今更だけど、私、責任重大……?

 こんなすごいもの着て皆様の前に出てこのドレスを披露しなきゃいけないんでしょ?

 どうしよう、不安しかない。


「そういえば貴方、パートナーは」


 あ、そう言えばパートナーが必要なんだっけ。今まで二回ともお兄様がしてくださってたんだった。でも今回はお願いできないよね。だって忙しい人だもん。


「あら、彼氏いるんでしょ?」


 ……何故それをリアさんが知ってるの? いや、もう犯人は分かってる。お母様でしょ! 絶対!!


「えぇと、忙しい人ですし……実は他国の貴族の人なんです。なので、そういうのってどうしたらいいのかよく分からなくて」

「そうねぇ、確かにアヤメちゃんはこの国唯一の公女であり異世界人。相手は他国の貴族となると国が絡んでくるからより複雑になってくるわねぇ」


 う~ん、どうしたらいいんだろ。やっぱり今回は一人で行く? 主催者のリアさんもいるし、製作者の一人であるパトラさんも行くみたいだし。


「貴方、彼の事愛してるの?」

「えっ」


 そう聞いてきたのは、パトラさん。そ、それは、勿論……


「イ、イエス、です……」


 なんか、こういうの恥ずかしいな。改めて言うと。本人がいなくて良かったって心から思うよ。


「じゃあいいじゃない」

「えっ……」

「別に、彼の事愛してるなら好きなようにすればいいって言ったの」


 なる、ほど……好きなように、か。でもそれは、自由人なパトラさんだからこそできる事なのかもしれない。だって、私はそんな勇気はないもん。あ、パトラさんの意見を否定しているわけではないよ。

 だから今回は、パートナーはなしでいこう。誰も何を言われたとしても、堂々としていればいいだけの事だ。



 そして、ようやく完成したのだ。二人が丹精込めて作り上げた素晴らしいドレスが。

 今まで着た事のない形のドレス。鮮やかな薄ピンクの布地をふんだんに使われていて、極めつけはこの素敵なレース。

 こんなに素敵なものを私は見た事がない。私はピンクを着るとちょっと子供っぽく見えちゃうところがあるんだけれど、このドレスはそんな所は全く無い。大人っぽくて、エレガントで、上品。着ただけで背筋がピシッと真っ直ぐになりそうな、そんなドレスだ。

 こんなに美しいドレスを着てもいいだなんて、夢のようだ。


「これ……本当に私が着てもいいんですか」

「えぇ、アヤメちゃんの為だけに作ったドレスなんですもの。これは貴方だけのものよ」


 そんな……こんな、光栄な事ってある? いや、きっとどこにもないと思う。

 ……それで、


「どうしてお兄様がいらっしゃるんです……?」


 いや、何故さも当たり前な事を言っているんだ、みたいな顔やめてもらってもいいですか。というか、その服かっこいいですね最高です。

 そう、もうパーティー当日なんです。完成したけれど当日までのお楽しみね♪ って言われちゃって。それで馬車に乗って侯爵邸に向かったらお兄様がいたんです。


「母上に呼ばれたから王宮から直接来た」

「あ、はい……」


 でも、このドレスと合わせた紳士服みたいなんですけど。もう事前にお兄様が来る事決まってました? え、私にだけ言ってくれなかったの? 悲しいんですけど……

 さ、着替えてきなさい。とお母様に言われてお兄様たちは退出していったのだった。

< 85 / 115 >

この作品をシェア

pagetop