『愛のため、さよならと言おう』- KAKKO(喝火) -
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◇初詣参拝

 百子は自分も手を合わせ拝みながら隣で同じように参拝している夫の
伸之の様子をチラりと伺う。


 自分は勿論のこと、今年も一年家族皆つつがなく平穏無事に過ごせますようにと祈願しつつ、
またここまで夫婦仲睦まじくこれたことなどに対するお礼、感謝の気持ちなどを申し上げた。


 果たして……夫の伸之は何を思い何を祈願したのだろう。




 そうは思うものの
『知りたいか? 夫の腹の底を。覗いてみたいか?』
と問われれば、NOと答えるだろう。


 百子は、世の中には曖昧なままでいいこともあるのだ、と
いうようなことを飲み込める年代に達していた。




◇出会い

 秋野百子と石田伸之のふたりの出会いというか馴れ初めは、同じ会社に
勤めている上司と部下という形での出会いだった。



 有り体に言えば世の習いというもので、毎日顔を合わし仕事を教え
教えられという仲で自然と互いを意識するようになってゆき、多少の紆余曲折はあったものの
そのまま百子からしてみればあれよあれよという間に結婚まで怖いくらいにスムーズに進んだ。                        


交際と言えば、高校生の頃に特定の男子と学校帰りに一緒に駅まで歩いて帰ったり、
たまに駅前の店でチキンと飲み物を注文し食べて帰るというようなデート替わりの
かわいい付き合いがあったくらいで、その後大学では大所帯の10人組のグループに
属し合コンなども2度ほど参加したが、綺麗どころが揃っていたせいか、ちっとも
目立たずいつも百子は壁の花で終わっていた。




 そのような経験から結婚には苦労するのだろうなぁという思いが
漠然とあったのだが。


          ◇ ◇ ◇ ◇



 入社後、支店には同期の女子が3人いたが全員メイクバリバリ、
着ている洋服や付けているアクセサリー持っている鞄などにかなりの額を
つぎ込んでおり、会社へは仕事と未来の旦那探しに来ているのが周囲にも
バレバレの彼女たちだった。


 会社へ仕事と未来の旦那探しに来ているというのは、
悪いことではないと思う。


 自分だって、見てくれる男性(ひと)がいれば、俄然頑張るだろうと
思うから。

 しかしながら、どうしてだか彼女たちの輪に馴染むことができないでいた。

 避けたわけでもなく気がつくといつの間にか同期たちの間では
ボッチという図式になっていた。


 同じ島に40代の契約社員の女性がいて、昼食時も何かのイベント時も
その人にくっついていた。


 くっつくという言い方も大概だけど、お相手が年上だからいいとしよう。

 女性が二人しかいない課で残業のある時などは男性社員たちと併せて
総勢8名で飲食店へ出掛けることもあったり。


 そんな環境下の職場で秋野百子は頑張っていた。
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