『愛のため、さよならと言おう』- KAKKO(喝火) -
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 出張で行った出先の旅館で秋野の同期の日比野が彼女の部屋に入っていくのを 
たまたま目撃してしまい、30分経っても出てこない日比野に痺れを切らし、俺は
一芝居打った。


 俺のところに駆けつけた彼女の様子から何もなかったのだと思いたいだけかも 
しれんが、何もなかったように見受けられ安心したのだった。

 ……とはいうものの、その()日比野が彼女を狙っているのかもしれないと思うと
ムクムクと嫉妬心に駆られてしまい、下らない質問を彼女にしてしまった。

 そして信頼を失くした。


 その上なんとか、しないとこのままじゃまずいと思っていた矢先の
彼女の退職願い。

 万事休すだ。
 一体どうすりゃあいいんだ。


          ◇ ◇ ◇ ◇


 いろいろ考えてみたが、とにかく彼女を説き伏せるには二人きりに
ならないと始まらない。

 避けてる彼女と二人になって話をするというミッションはそこはかとなく
厳しいものがある。


 俺は黒田女子に相談することに決めた。
 年の功できっと助けてくれるような気がした。

 黒田さんには正直に話して相談をした。


『秋野が退職届を出しているので何とか踏みとどまらせたい。

 ついては彼女と話をして説き伏せたいと考えているが個人的な付き合いが
ないので話をしたいからと言って会ってもらえるかは分からず困っている。

 彼女と会うのに手を貸してはいただけないでしょか』と。


 彼女には会議室に来てもらい、相談をした。

「もちろん、いくらだって私の手でよければお貸します。
 私だって秋野さんがいなくなるなんて耐えられないですから。

 彼女ほど素敵で可愛げのある後輩はこの先絶対現れないと思いますから、
絶対彼女の退職は阻止したいです」


 良かった。
 彼女と俺の気持ちがひとつになった瞬間だった。


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