『愛のため、さよならと言おう』- KAKKO(喝火) -
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 私と秋野さんは会社から徒歩数分の最寄り駅近くの『フランソワ』という
カフェに入った。



 入り口のドアが濃い色合いのブルーで壁はシースルーのガラス張りに
なっていて、一見小さな店舗に見える店。


 しかーし、中に入ると嘘のように結構広々としている。


 なんか、今日の石田さんみたいに込み入った話をするのにぴったし
なのよね。


 勿論(みんな)でわいわいやるのも良しって感じなんだけどね。


 テーブルと椅子が木でできていて暖かさを感じるそんな店。




 秋野さんと来る時は大体サンドイッチだとかケーキを頼むんだけど、
今日は秋野さん、石田さんと話をすることになるので、そんなもの頼んでも
きっと喉に通らないと思うから、ここはお(ねい)さんが気を利かせて
あげるね。




「え~と、私お腹すいちゃったのでサンドにし……」


「あぁわわ、あの秋野さん?」


「はい?」


「実はここの後、友だちから教えてもらった素敵なバーへ行こうかなって
思ってるの。だから軽食は後にしない?」



「わぁ~、素敵。分かりました。
 黒田さんと飲みに行くなんて初めてですよね。
 あ~ん、これが最初で最後になるかも」


「何々、意味深なこと言うねー」


「あぁ、実は私……」



 入り口を見るとちょうど石田さんの姿が見えた。
 間に合ったようだ。



          ◇ ◇ ◇ ◇




 私はわざとらしく
「石田さん! すごい偶然ですね。ご一緒しません?」
と大きな声で石田さんに向けて声を掛けた。


 秋野さんを見ると青ざめている。


 石田さんと何かあった?
 だから辞表を出した?



 いきなりそんな考えが次々思い浮かんだけれど、とにかく目の前の
ミッションをこなさないとね。




「おじゃましてもいいのかなぁ~」
と、しらっと言いつつ石田さんが秋野さんの横に座った。



 私はややお尻の位置を二人の間くらいにずらして会話した。


 何か妙な感じ。


 石田さんと秋野さんの表情が丸わかりなんだもの。
 秋野さんは愛想笑いをしつつも、迷惑そうなのが見て取れた。



 ここで私が彼女を置き去りにして席を立てば、泣いて縋ってきそうな雰囲気だ。




 そう考えていると、思っていた以上の早急さで石田さんから『帰っていいよ』
という合図が飛んできた。



 いや、視線を受けただけなんだけど、分かったのよ。




「秋野さん、私、ごめん。急にお腹痛くなってきちゃって……
申し訳ないけど帰るね」




「えーっ! いやそんな……。
 じゃあ私、駅まででも見送ります」




 
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