口に甘いは腹に毒

 那由多先輩は「へえ?」と目を細めた。

 う、まだ何も言ってないのに。もうバレちゃったの?


 するっと腰に手が回ってきた。



「報告以外にも言うことがあると」

「あ、あります。まだ言いませんよ……?」

「焦らすのが上手いんだな」



 遠慮なく距離を詰めてくる那由多先輩。

 何度も同じような状況を経験してるのに、いつまで経っても慣れないな。

 思惑通りに顔を熱くしてしまう。



「せ、せんぱ……」

「苹果」



 胸を押して離れてもらおうと思っていたところで。

 不意に、頭へキスを落とされた。

 音もなく、撫でるくらいの優しい感触。



「……後悔だけは残らないようにな」



 いつも余裕に溢れているはずの表情が……気のせいかもしれないけど、少し変だった。

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