口に甘いは腹に毒

 容器を渡すとき、偶然手が触れ合った。

 冷たい指先。リビングの暖房も付いてないみたいだけど、寒くなかったのかな。

 ……とか考えるのも、今日限りになる可能性だってあるよね。

 大事にしたい。



「冷める前に食べて!」

「わかった、いただきます」



 テーブルに向かい合わせで座る。二人で食卓を囲んでいたときの定位置。

 玉露くんの口に入るまで、真剣に見つめた。机の下で手を祈りの形にする。


 味見してみて、自分では美味しいと思った。剣先輩のお墨付きももらえた。

 きっと大丈夫……。


 彼が一口食べた瞬間、緊張が最大値に達して──。



「うん、美味しいよ」

「っ……、よかったっ……!」



 強張っていた顔の筋肉が緩む。

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