口に甘いは腹に毒
この感情が、ちゃんと名前の付けていいものなのか定かではないけど……。
那由多先輩の期待を台無しにするものだってことはわかる。
「すぅ、……はぁ」
深呼吸してから、スマホに手を伸ばした。
迷いのない手つきで通話ボタンを押す。
呼び出し音が続く。
回数を重ねるごとに心臓の鼓動も早くなり、緊張が高まっていった。
『──おはよう、苹果』
「っ……! あ、」
優しい声色。
それだけで、今日が来ることを楽しみにしてくれてたって伝わる。
……わたしって、最低だ。
『昼食を準備してあるんだ。十一時くらいにそっちへ迎えに行こうと思うんだが、用意はできそうか?』
「っあ、の……! そのこと、なんですけど」
最後まで聞かないまま、言葉を被せた。