口に甘いは腹に毒

 心臓の音がうるさすぎて周りの音が遠のいていく。

 全くこっちを見る気配のない彼に、早く気付いてほしい。

 ちょっとだけ髪を整え、話しかける準備を済ませた。



「ぎょく……」



 時はそこで止まる。

 玉露くんで隠れて見えなかったけど、隣に誰かがいた。

 女の子だ……。


 女の子が玉露くんの耳元で何かを話してはにかむ。

 誰が見ても恋する表情。可愛い乙女の姿。

 あぁ……わたし今から、あの二人の邪魔をするんだね。


 前までならここで身を引いてた。

 逃げてた、って言う方が近いかな。

 自分が傷付かないように、なるべく安全な方へ行こうとしてたと思う。


 それがわたしの成長しなかった理由だから。

 そんな自分は嫌だから。勇気を振り絞る。

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