口に甘いは腹に毒

 買い物も手早く済ませ、玉露くんの家まで送ってもらう。

 電車で帰るより、かなりの時間短縮になった。

 ドアを開けて降りた後、深々と頭を下げる。



「本当にありがとうございました」



 今日だけで何回お礼を言ったかわからない。



「お礼はデートでな」

「……いやあの、だからそれは」



 御鏡先輩も懲りてくれない。

 冗談も少しは入ってるんだろうけど。



「またいつでも頼ってくれ。じゃあな」

「あっ……」



 内側からドアは閉じられ、車が発進した。

 遠ざかっていく姿をなんとなく眺める。


 強引かと思ったら、あっさり離れてくれる。嫌悪感にならないギリギリに調整されたバランス感覚が恐ろしい。

 なにより……。

 わたしが目当てのはずなのに、玉露くんをないがしろにしないでくれたのが、一番嬉しかった。

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