口に甘いは腹に毒

 はらはらしていると、ようやく玉露くんが口を開く。

 それは消え入りそうなくらい、微かな声だった。



「……、抱き締めてほしい」



 え……。


 玉露くんの耳がじわじわと赤に染まっていく。

 わたしがびっくりしちゃって、冷静になる時間を与えたから。



「……むり。うそ、やっぱりなにもない」



 ふらふらと後ろ歩きでベッドに下がる。

 頭まで被って隠れ、こんもり山を作る布団。


 ──そんな玉露くんの行動が、わたしの心をくすぐった。



「いいよ、玉露くん。抱き締める……いっぱい、ぎゅーって、するよ」



 だって、初めて見た。あんな玉露くん。

 ちょっと焦ってて可愛かった。

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