口に甘いは腹に毒

 唯一、使用人の(つるぎ)には伝えた。

 俺が取り繕っていることを一瞬で見抜かれたからだ。

 二人で原因を探り、やがて一つの結論へたどり着く。



 治療法のない、原因不明の味覚障害。

 通称フォーク。



 病院に行っても処方される薬はケーキへの捕食欲を抑えるためのもの。

 味覚は戻らないと思っていた方がいい、らしい。


 しかし、本物のケーキの味を知ってから納得がいった。


 舌の上でとろける甘美な味。

 脳から全身へ、ビリビリと痺れるくらい巡っていく快楽。


 幸福を失ってから初めて感じた刺激の正体を、あのとき思い出すことができたのだ。

 今まで食べてきたどんなものより、強烈な、



 ──『美味しい』。

< 85 / 187 >

この作品をシェア

pagetop