口に甘いは腹に毒

 上目遣いで言われてしまっては、玉露も言葉を飲み込むしかないだろう。

 目線は苹果の肩に注がれており、今すぐ離せとでも言いたげだ。


 苹果はまだ俺に礼が言いたいのか。律儀なやつ。

 そういうところも愛しい。



「御鏡先輩、だから、あの……」

「なんだ?」

「待って、ち、ちかいです……」



 苹果の顔はほんのり赤く染まる。その直前、玉露へ視線を飛ばしたのを見逃さなかった。


 離れるなら今っぽいな。

 で、安心される、と。



 苹果の味が忘れられない。

 しかし同時に、傷付けたくない心もある。


 彼女がケーキだからなのか、自分好みの女子だったからなのか。

 きっかけにすぎないことは置いといて。



 気に入ってしまったからには手に入れたい。

 ……たとえ長い道のりでも。

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