今宵も鳴らない電話

 空夜は愛美の目に浮かぶ涙を指で掬い上げる。
 微かに反応したが、愛美は眠ったままだった。

 愛美を泣かせて悲しませるのに、こんなにも淋しい目をさせているのに、愛美の心にいるのは自分じゃない。
 こんなに近くにいても、愛美の心の中に自分の居場所はない。
 どんなに傷付き淋しい思いをしていても、愛美が恋焦がれているのは彼奴なのだ。

「俺にすればいいのに」

 彼女が眠る間しか言えないことが情けない。

 俺のことを利用すればいい。
 彼奴に嫉妬させてやればいい。
 都合の良い存在でいいから、傍にいたい。

 愛されなくてもいいから、覚えていて欲しい。
 俺という存在がいることを。
 だからいつでも呼び出してよ。

 空夜の切なる思いは夜の帷に消えた。


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