今宵も鳴らない電話

 だから、言った。
 いつでも電話して欲しい、淋しくなったら呼び出して欲しいと。
 少しだけでもいいから、愛美の鼓動に近づきたかった。

 だけど本当は――愛美の愛が欲しかった。

 ただ普通にデートして、映画を観て、二人で笑い合って。
 一番近くで支えて抱きしめ合える存在になりたかった。

 淋しい顔なんてさせないで、毎日笑わせてやれるのにってずっと思っていたのに。
 物分かりの良いフリをしていても、自分の心は誤魔化せていない。本当は愛美の愛を切望していた。

「っ、う……っ」

 カッコつけずに素直に言えばよかったのだろうか。
 あんな男なんかやめて、俺にしろよと。
 誰よりも好きだと素直に言えていれば、何か変わっていたのだろうか?

 いや、きっと変わることはなかった。
 もう何を思っても、今更変わることはない。
 空夜の悲痛な想いは宵闇の中に溶けてゆく。

 結局最後まで本当の気持ちは伝えられないまま、終わりを告げた。
 その日から、電話は鳴らなくなった。


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