今宵も鳴らない電話
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深夜の映画館はほとんど誰もいない。
席はまばらで、空夜が座る座席は一列分貸し切り状態だった。
その隣では、幼馴染の愛美がスクリーンに釘付けになっている。映画を観に来ているのだから当たり前なのだが、どうしても時折愛美の横顔を盗み見てしまう。
深夜の映画館、観ている作品はハードボイルドなアクション映画だった。どう考えても愛美の趣味ではない。
当たり前だ。この映画は愛美が想いを寄せる男が観たいと言った映画であり、レイトショーで一緒に観るはずだった。
電話が鳴り、愛美の名前がディスプレイに表示されたのを見て、空夜は何となく察した。
またあの男関係なのだろうと。
案の定ドタキャンされたという嘆きの電話だった。これから一人で映画を観るというので、そのチケットを俺にくれと言った。
こんな夜遅くにわざわざ来るのかと驚く愛美に、一人でレイトショーは淋しいだろと言ったら「ありがとう」と呟いていた。