今宵も鳴らない電話

* * *


 深夜の映画館はほとんど誰もいない。
 席はまばらで、空夜(くうや)が座る座席は一列分貸し切り状態だった。
 その隣では、幼馴染の愛美(まなみ)がスクリーンに釘付けになっている。映画を観に来ているのだから当たり前なのだが、どうしても時折愛美の横顔を盗み見てしまう。

 深夜の映画館、観ている作品はハードボイルドなアクション映画だった。どう考えても愛美の趣味ではない。
 当たり前だ。この映画は愛美が想いを寄せる男が観たいと言った映画であり、レイトショーで一緒に観るはずだった。

 電話が鳴り、愛美の名前がディスプレイに表示されたのを見て、空夜は何となく察した。
 またあの男関係なのだろうと。
 案の定ドタキャンされたという嘆きの電話だった。これから一人で映画を観るというので、そのチケットを俺にくれと言った。
 こんな夜遅くにわざわざ来るのかと驚く愛美に、一人でレイトショーは淋しいだろと言ったら「ありがとう」と呟いていた。


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