今宵も鳴らない電話
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映画館から歩いて行ける距離に空夜のマンションはある。
もう何度も訪れたことのある愛美は、何の気兼ねもなくソファに座った。
ティーバックの紅茶を淹れてマグカップを渡すと、「それあたしがあげたやつ」と言っていた。この前友達と旅行に行って来た時にくれたものである。
「あんまり飲んでないんでしょ?」
「そういうわけじゃないけど。来た時に飲みたいかと思って」
「えー、まあ飲みたいけど」
そう言いながら両手でマグカップを持ち、一口飲んで「あつっ!」と叫んだ。
愛美は昔から猫舌だ。そのくせ一口目は思いっきり口に含もうとするので、大体こうなる。
「学習しないなぁ」
「今日はいけると思ったんだもん」
「猫舌って食べるのが下手らしいぞ」
「今は飲んでる」
「同じだろ」
「火傷したかもしんない」
若干涙目になりながらこちらを振り向いた直後、愛美の唇を塞いだ。
愛美は一瞬目を見開いたが、すぐに閉じて空夜の冷たい唇を受け入れた。