今宵も鳴らない電話


「冷ませた?」
「どうかな……」

 鼻先を寄せる愛美。空夜は角度を変えてもう一度口付けた。
 愛美が僅かに開いた口内に舌を挿し入れると、愛美も応えるように舌を絡ませる。静寂の中で響く水音と吐息。
 いつの間にかソファに倒れ込み、互いの唇を夢中になって貪っていた。

 愛美とこういうことをするようになったのは、大学三年になってすぐのことだった。
 ある夜、突然愛美が空夜の自宅を訪ねてきた。今にも泣き出しそうになりながら佇む彼女を放ってはおけず、部屋に招き入れた。
 あの夜も今日と同じように、愛美は約束をドタキャンされた。

「多分別の女と会ってるの」

 愛美が付き合っているのは、大手商社に勤めるエリート社員だった。ある飲み会に誘われて行ったらその男と出会ったのだそうだ。
 彼の大人で包容力があり、それでいてどこか「ずるい」ところに惹かれた。
 そこから男女の関係になるまで時間はかからなかった。


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