今宵も鳴らない電話

 愛美はその男に惚れている。だが、付き合ってはいない。
 一度も好きだと言われたことはない。
 それでも愛美は男のことが好きで、相手が社会人で自分が大学生だから子どもに思われたくない、嫌われたくないという思いから全てを飲み込み、今の関係を続けている。
 だが、約束を反故にされて傷付いていた。

 そんな男やめろよ、なんて言葉が意味をなさないのはわかっていた。
 だから、空夜はこう言った。

「お前も同じことすれば?」

 愛美は顔を上げ、驚いて空夜を見つめる。

「そいつが別の女と一緒にいるなら、今のお前も同じじゃん」
「っ、でも空夜は」
「俺なら後腐れないだろ?」

 空夜と愛美は小学生の頃からの仲である。
 両親が夢だった一戸建てを購入して引っ越した。その家の隣に住んでいたのが愛美だった。
 互いの両親が共働きだったこともあり、二人はよく学校から帰ってどちらかの家に行った。
 一緒にゲームしたり夕飯を食べたり、何気ない日常を共に過ごした。


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