今宵も鳴らない電話
それまで幼馴染としてそれなりの距離で付き合っていたが、変わったのは愛美が高校生になって初めての彼氏ができた時だった。
「サッカー部の先輩に告白されたんだ」と頬を染めながらはにかむ愛美を見て、空夜は思い切り頭を殴られたような感覚に陥った。
それまで何気なく一緒にいた愛美が、急に知らない女の子になってしまったような気がした。
そしてその時、初めて愛美を異性として意識した。
彼氏と一緒に嬉しそうに帰る愛美を見て、気が狂いそうになった。
どうして愛美の隣は自分ではないのだろう。
あそこは確かに自分の居場所だったはずなのに、そうではなかったのだと痛感させられた。
今更ながらに空夜は自分の気持ちを自覚することになる。
近くにいすぎたせいで気づかなかった。
愛美の無邪気な屈託のない笑顔、当たり前のようにずっと見られると思っていた。だけど、そうではないのだ。
誰かに取られてから気づくなんて、なんて馬鹿なのだろう。
結局その先輩とは程なくして別れたが、空夜は愛美への想いを燻らせるばかりだった。
「やっぱり空夜といる方が気楽でいいね」
別れたという報告を受けた時、愛美は笑っていた。目を真っ赤にしながらそれでも笑っていた。
本当は泣き虫のくせに強がろうと無理して笑う。昔からそうだ。
そしてそんないじらしいところが、たまらなく愛しいと思う。