今宵も鳴らない電話

 今もそう、愛美は必死に淋しさを押し殺そうとしている。
 戸惑いも迷いもあるのだろう、瞳がゆらゆらと揺れ動いている。
 だけどそんな彼女を引き寄せて抱きしめた。

「俺のこと、利用していいから」
「〜っ、くうや……っ」

 愛美の心の隙間に付け入ることになったとしても、彼女の傍にいたかった。
 ただもう少しだけ近い存在で、彼女の淋しさを埋めたいと思った。
 彼女の心のもっと奥深くに触れたいと思った。

 幼馴染のままでは物足りない。ただ傍にいられたらいい、なんて綺麗事は思えない。
 ずるくても構わない、もっと深く繋がり合って愛美の淋しさを拭い去りたい。

 外はいつの間にか雨が降っていた。窓ガラスから覗く夜の雨は、まるで愛美の心を映した鏡のようだった。

「空夜、あたし……」
「何も言うな」

 震える愛美の唇に人差し指を押し当てる。
 何も言わなくていい、わかっているから。

 愛美の瞳にじわりと涙が滲む。彼女の頬を撫で、そっと唇を重ね合わせる。
 これで拒否されたら、もうやめる。ただの幼馴染でいる。

 だけど愛美は拒まなかった。一瞬ピクリと反応したが、そのまま受け入れた。
 一度離し、もう一度唇を重ねる。二度目の口付けは感触を確かめるように、深く濃厚に絡み合う。

 いつしか夢中になってお互いを求め合っていた。
 愛美は大きく手を広げて空夜にぎゅっと抱きつく。
 そのやわな体をしっかりと抱き止め、そのままベッドになだれ込む。

「淋しくなったら、いつでも電話して」

 うるうるしながら空夜を見つめ、愛美はこくりと頷いた。

 それから二人は幼馴染以上恋人未満の関係になった。
 愛美からのコール音は、彼女の心の叫び声。淋しくてつらい、独りになりたくないというSOS。


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