今宵も鳴らない電話

 はっきり言って、愛美が好きな男は愛美のことを利用している。自分が会いたい時にだけ会って、抱きたい時に抱く都合の良い存在。
 愛美もそのことには気づいているはずだ。それでもそいつとは別れられない。離れ難くて淋しくて、それでも涙を堪えて唇を噛み締める彼女のことが、たまらなく愛おしい。

 だから愛美にとっての都合の良い存在でもいいと思った。
 愛美の心に空夜がいなくても、別の誰かを求めていたとしても、夜が明けるまでずっと傍にいる。
 抱きしめて口付けて繋がって、愛美の淋しさを埋めてあげられる。
 たとえそれが一夜限りだったとしても。

 シングルベッドは二人で寝るには狭く、愛美は小さく丸まりながら空夜にくっついて眠っている。
 指で顔にかかった髪の毛を掻き分けてやると、うっすらと涙が浮かんでいた。

 なんで愛美を利用する男なんかのこと。
 何度も喉元から出かけて、何度も飲み込んだ言葉。

 平気で嘘をついて、都合の良い時しか呼び出さないで、自分都合で急に予定をキャンセルする。
 そんな男といても幸せになれるわけがない。
 愛美はもっと幸せになれる、なっていいはずだと何度思ったことか。それを口にできずにいるのは、嫉妬じみたエゴを押し付けることになるとわかっているからだった。


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