愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 絶対他にも言うべき言葉があったはずなのに、何故か私からはそんな言葉が飛び出て自分でもしまった、と思ったのだが、返ってきたのは「あぁ」という短い肯定。

 たったそれだけの言葉に私の胸は歓喜に震える。
 
「だがセヴィーナは痛かったよな」
「痛くない。……のは、嘘だけど、でも、痛みも私のものだもの」

 じわじわと赤くなる顔を見られたくなくて、私の頭を撫でる彼の手のひらから逃げるように寝返りをうち背中を向ける。

“こういう時に素直に甘えられたらいいのに”

 貴方に抱かれて嬉しかったのだと素直に口に出来ない自分がもどかしくて上掛けに顔を埋めると、そんな私に呆れずアルドも私の隣にそっと寝転ぶ。

 そしてそのまま上掛けごと抱き締められた。


「次は痛くないように努力する」
「……うん」

 
“次があるのね”

 その事実が堪らなく嬉しい。
 
 まだ気恥ずかしくて振り向けないままの私は、この気持ちが少しでも伝わることを願いながら私を抱き締める彼の手に、そっと自身の手を重ねたのだった。
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