愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 怪訝な顔をしたミィに、私は自信満々な顔を向ける。

“朝のこの時間はまずここを通るって観察していたから知ってるのよ!”

「ロマンチックな光景を作って、王女の恋を後押しするわ」
「こ、この水でですか!?」
「えぇ。虹をかけるの!」
「あ、それ絶対出来ないやつ――あぁっ!」

 私の言葉に愕然とした表情を向けたミィナは、私が用意していた水を思い切り撒いた瞬間に小さな悲鳴を上げて片手で頭を押さえる。
 私はというと、水が足りなかったのか虹のかからない空を見上げながら次の水の入った桶を両手で抱えた。

「えっ、諦めないんですか」
「諦めることはいつでもできるのよ」
「今は全力で諦めて欲しいのですが!」

 悲痛な表情で訴えるミィナに無理やり止められるまで水を撒き続けた私だったのだが、残念ながらなかなか虹はかからない。
 そしてとうとう彼女たちがここを通る時間になったことに気付いた私は、無念さを抱きつつも撤退する。

“だめ、時間切れだわ”

 項垂れつつ近くの壁の陰に身を隠した私たちの前に、時間通り王女と護衛騎士であるクリストフ卿が通りかかったのだが。
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