愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
「……足元が悪いです。迂回しましょう」
「どうしてこんなことになってしまったの……。雨でも降ったのかしら」

 呆然とぬかるんでしまった地面を見た王女は、クリストフ卿に促されるままかからなかった虹の下を通ることなく元来た道を戻った。
 二人が見えなくなる寸前、クリストフ卿だけが私たちの隠れている方へと振り返る。

“気付いてるわね”

 ある意味当然かもしれないが、私たちの存在を確認したらしいクリストフ卿は怒るでも笑うでもなく無表情なままこちらをチラリと確認しそのまま建物の方へと消えて行った。


「失敗ね」
「成功するビジョンは最初から見えていませんでしたけどね」
「次の作戦に行くわ」

 絶対やめた方がいいですよ、と全力で止めるミィナを引きずるようにして向かうのは王女が優雅にお茶を飲んでいる、ガラスでできた温室である。

「一度原点に帰って直接乗り込むわ!」
「そんなっ!」
「アルドには効いたもの、きっといけるはずよ」

 そう断言した私が扉を勢いよく開けると、私が直接乗り込んでくると思っていなかったらしい王女がぽかんとした表情でこちらを見る。

「ミィナ、例のものを」
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