愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
「本当にするんですか……」

 何故か項垂れつつ彼女が渡してくれたのは白いハンカチと刺繍糸、そして針。

「突然なんの用なんです」
「王女は私の義妹です。親交を深めるべく来ました!」
「その手に持っているのは」
「もちろん、一緒に刺繍をして時間を過ごすためですよ!」

 ふふん、と鼻を鳴らし得意げにそう言うと、一応針という危険物を持っているからか、そんな私をクリストフ卿がやはり表情を変えずただただ見ていた。

「ちなみに何故刺繍なんです?」

 眉をひそめてそんなことを口にした王女に思わず首を傾げた私は、一瞬だけミィナを振り返ると小さく彼女が頷いてくれた。

「王女殿下の刺繍の腕がとてもいいと聞いたからです。私はその……お恥ずかしいのですがそういったことはしたことがなくて」

“少しでも男の子っぽく振る舞おうと、特にこういった令嬢らしいことは避けて来たから”

 刺繍針ではなく剣を手に取ったことに後悔はない。
 あの時剣を取っていたからこそ、誰との縁談も決まらず結果的にグランジュへと嫁入りできたのだから。
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