愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 だが無口で表情も変えず淡々と護衛の仕事をしていた彼が、主人が怒っている時に笑うだろうか?
 
 なんてことを思いながら彼の方へと視線を向けた私の目に飛び込んできたのは、先ほど私が舞わせたどの花びらよりも、太陽光を反射しキラキラと輝く王女の髪よりも美しい笑みを浮かべるクリストフ卿だった。

「お可愛らしいですよ」
「く、クリス……」

 ギリギリ彼女の頭には触れないように積もった花びらを払うクリストフ卿。

 
“無表情だなんてとんだ勘違いだったわ”
 
 見た目が美しいというよりは慈愛が滲み出るような、そんな柔らかい微笑みを浮かべた彼のその表情からは、王女のことが愛おしくて仕方ないという気持ちが溢れ出ている。
 
 そしてそんな微笑みを向けられた王女の頬も、先ほど私に向けられたような怒りで染まったのではなく、喜びで咲き誇るような笑顔だった。

“クリストフ卿の笑顔は王女に向けてだからなのね”

 自分に向けられていなかったため気付いていなかったが、そういえば初めて王女と会った時も彼女にだけは笑顔を向けていたと思い出す。

< 138 / 340 >

この作品をシェア

pagetop