愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 そんな当たり前のことにも気付かなかったのはアルド殿下に通う気が全くないからだわ、なんて責任転嫁しつつミィナに続いて部屋へと入る。

 通された部屋は落ち着いた色で全体がまとめられており、想像よりもずっと居心地が良さそうだった。
 

 遠目でも品質の良さがわかる家具に、ふかふかしていると断言できるベッドにソファ。
 クッションも何故こんなにあるのかわからないが積まれていて、その上で寝転ぶだけで眠れそうなほど。

 壁にはリヒテンベルンに似た風景の絵画が飾られており、そしてその広々とした部屋の中心にポツンと置かれているのが私の荷物だった。


「では、私はこれで」
「あ、ミィナ待って」

 案内を終えたミィナがそそくさと部屋から出ようとしているところへ声をかける。

 そして自身のトランクから小さな小瓶を取り出した。
 

「これ、私がずっと愛用している保湿液なの。手荒れにも効くから使ってみて」
「え……」

 そのまま小瓶をグイと押し付けるように手渡すと、ミィナがその小瓶と私の顔を交互に見る。

 戸惑う彼女が可愛くてにこりと微笑むと、じわりと彼女の頬が赤く染まった。
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