愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 涙目になりながら顔をブンブンと振っている王女に少し申し訳ないと感じつつそのまま部屋を飛び出した私は、わざとらしく使用人が沢山いるであろう厨房の前をバタバタと足音を立てながら走り、洗濯場の真ん中も駆け抜けた。

 突然のその怪しい乱入者に唖然とした使用人のひとりが、担がれている相手が王女殿下だと気付き叫び声を上げる。

「いいわね!」

 その声を聞き満足した私は、朝のうちにこっそり連れてきたラオを繋いでいる木へと方向転換したのだった。


 ◇◇◇


『モニーク王女殿下とセヴィーナ王太子妃が白昼堂々拐われた』という衝撃的なニュースがアルドの元に入ってきたのはセヴィーナが彼女を抱えて見せつけるように駆け回ったすぐ後だった。

 
「セヴィーナとモニカが……!? 護衛騎士はどうしていたんだ!」
「何でも王太子妃殿下に指示され、飲み物を持ってこさせるべく席を外していたようで」
「……なに?」

“セヴィーナが指示して、飲み物を?”

 その説明に違和感を覚えた俺がダレアの方を見ると、同じく違和感を覚えたらしいダレアの怪訝な表情が目に飛び込んだ。
< 166 / 340 >

この作品をシェア

pagetop