愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 青い顔をしていた侍女も、俺のその説明を聞き怪訝な顔になる。
 そもそも王城内での王女誘拐という、いわばかなり綿密な計画を立てねば成功どころか実行も出来ないような作戦を、小柄な男一人でこなせるはずがないのだ。

「ついでにこっそり確認したところ、貴女と王太子妃が以前イースまで乗ってきていた黒馬もいなくなっていたらしいですね」
「そ、れは……」

 ダレアの説明を聞き、さっきまでとはまた別の意味で青くなった侍女に俺も頷く。

“十中八九拐ったのはセヴィーナだ……!”

 目的はわからない。
 だがどうせモニカの為に奇天烈な発想で暴走したのだろう。

「……まずいことになった」

 俺が再びそう口にすると、今度は正確に『妹と妃が拐われて大変なことになった』ではなく『妹を妃が拐って大変まずいことになった』という意味で理解したらしいその侍女も「まずいですね」と冷や汗を流した。


 ここにいる面々は少なくともセヴィーナが害意を持ってそんなことをしただなんて思ってはいない。

 だが、世間は違う。

「セヴィーナはリヒテンベルンから嫁いできたんだ、あいつが王女を拐ったとなれば考えられるのは」
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