愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 よって私は“予定通り早々に負けることに”した。


 そう決めた私は、再び彼の懐目指して姿勢を低くし駆ける。

「一度目すら利かなかったのに同じ手が通じると?」
「ま、待ってクリス……!」

 そんな私を排除すべくクリストフ卿が剣を振るう、その一瞬。

「……よっと」
「!」

 私は更に姿勢を低くし剣を避ける。

“姿勢を低くした状態から更に低くなったのは予想外だったみたいね”

 そしてそのまま彼の懐に入り、剣を持っている彼の腕にしがみつこうとし――……

「ひゃ!?」

 ガチャンと剣を放棄したクリストフ卿と寸前ですれ違いバランスを崩してその場に転んだ。

“え、え?”

 転んだ私の目の前には彼の武器である剣があり、その事実に呆けてしまう。
 何故なら騎士にとって剣とは命そのものだからだ。

「ど、うして……」

 予定では彼の腕にしがみついて剣を封じ、安全に捕まえて貰う予定だったのだ。

 ただ投降するだけではその場で首を斬られかねなかったし、そこまではいかなくとも逃げられないように腱を切られる可能性だってあった。
< 177 / 340 >

この作品をシェア

pagetop