愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 無傷で勝てる可能性は低くても、無傷で捕まることが目標ならそこまで難易度は高くない。
 向かってきた相手の目的が自分を倒すためだと思っているなら私の取る行動とその予測は必ずどこかでズレて、それが大きな隙になるからだ。

“だからあとは捕まるだけだったのに”

 武器を封じられれば彼は素手で捕まえるしかなく、しかも自身にしがみついている相手を殴ったり蹴ったりは出来ない。

 なのに、まさか圧倒的に有利だった彼が武器を捨てるだなんていまだに信じられず愕然と固まっていた私は、ハッとして顔を上げる。

「二人は……、あら」

 慌てて振り向いたその先には、王女を抱き締めるクリストフ卿の姿があった。


「ちょ、クリス、クリス?」
「ご無事で良かったです」

“……これは、バレてるわね”

 拘束すらしていない賊の目の前に自身の武器が投げ出されている状態で背中を見せるなんてミスをこの国の護衛騎士にまでなった男がするはずはない。

 もし本当に私が賊だったのなら、彼の武器を使い彼を王女ごと刺し殺すことだって出来るのだから。


「何故気付いたの?」
< 178 / 340 >

この作品をシェア

pagetop