愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
「……最初の突進を受けた時に王太子妃殿下の刺繍されたハンカチが見えたからです」

 端的な答えに納得する。
 王女を拐う時に使ったため、確かに私は今あのハンカチを持っていた。

“それにあの刺繍ハンカチを作った時にクリストフ卿もいたわね”

 きっとその時に見て柄を覚えていたのだろう。
 記憶に残るほどの名作を作ったつもりまではなかったのだが。

「で、でもどうしてクリスがここに?」
「貴女が拐われたからです」
「じゃあ、その……どうして私は抱き締められているの?」
「それは」

 ポッと顔を赤らめている王女に聞かれたクリストフ卿が一瞬きょとんとする。
 そしてすぐにふわりと微笑んだ。

「貴女が大事だからです」

“い、いい感じじゃないかしら!?”

 シチュエーションとしては完璧だ。
 私という悪者から姫を救出し花畑で愛を誓う勇者という構図が出来ている。

 私の正体はバレてはしまったが、互いを想い合っているのは明白だったので、雰囲気さえ作ってやればこうなると踏んでいたのだ。
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