愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 私の言葉に唖然としたミィナ。その彼女の腕に銀タライが抱えられていることに気付く。
 どうやら私が顔を洗えるようにと水を汲んできてくれたらしい。

 まさかあからさまに歓迎されていない私の為にわざわざ持ってきてくれるとは思わなかったので、驚くと同時に胸の奥がくすぐったくなった。
 

「ありがとう」

 銀タライを受け取ろうと逆立ち腕立て伏せをやめて立ち上がる。
 すると、まっすぐ立った私を見てミィナが更に目を見開いて口もポカンと開けて固まってしまった。
 
“何に驚いているのかしら”

 そんなミィナを見て思わず首を傾げた私が彼女の視線を追うと、私の腰回りに向かっている。

「あ」
 
“そうだ、夜着が捲れないように革紐で結んだんだった!”

 その革紐は私が持ってきたトランクの中に入っていたひとつで、主に剣を腰から下げる時に使うベルトの役割をするものだった。
 剣自体は持って来られなかったが、いつか手に入れた時に使うつもりで鞄に入れていたもので、護衛騎士のジークが持たせてくれたものでもある。
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