愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 お風呂上がりだからか、アルドの赤褐色の髪が少ししっとりとして気持ちがいい。

 まるでいくらでも撫でていられそう――……

「これ顔に胸が、いやその逆に気が散るというか」
「……」
「セヴィーナ? って、お前が先に寝るのかよ……」
「まだ寝て、な……」
「いやいい。ほら、もう寝ろ、俺も寝るから」

 人肌とは何故こんなにも温かく安らぐのか。
 彼の声がじわりと染み込み、心地よい温度ですぐにうとうととしてしまった私は、彼を寝かしつけるつもりだったのにあっさりとその意識を手放してしまったのだった。


 ◇◇◇


「でも、やっぱり絶対顔色が悪かったと思うのよ」

 朝の支度を手伝ってくれているミィナにそう言うと、淡々と準備をしてくれていた彼女が少し手を止めた。

「そうですね、現在両陛下が貴賓としてメイベルク王国へと出向かれておりますのでかなりお忙しいかとは思います」
「そうよねぇ」

 王太子が元々こなす仕事の他、現在はこのグランジュの代表としての仕事も代理でこなしているアルドはあまり内情に詳しくない私から見ても毎日かなり忙しいのは間違いない。

「メイベルク王国かぁ」
< 204 / 340 >

この作品をシェア

pagetop