愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 少なくとも私を心配するような者はいなかった。

 それなのに、私はここグランジュに人質として嫁いでから最愛の人と私を大事に想ってくれる人、そして私を信頼してくれる人まで出来たのだ。
 その事実に少し目頭が熱くなったのは内緒である。


 
「思ったより観客が多いわね」

 町の中心から少し離れた場所が今回の会場になるのだが、中心街よりも離れているにも関わらずそこには沢山の民衆で溢れかえっていた。

「それだけ妃殿下に興味があるということでしょう」

 ざわざわとする会場内。
 観客が多ければ多いほど当初の目的である第一騎士団の強さを見せつけるという目的が達成されてありがたいのだが、正直こんなに人が多く集まるとは思っていなかった私はただただ呆然とした。

「いいですか、表向きは妃殿下はここにはいらっしゃらない。おわかりですよね?」
「えぇ。私が私としてここにいると、狙われる危険が高いわ。何しろ争いで最も被害を受けるのが彼らだもの」

 中には私を、リヒテンベルンを恨んでいる者だって少なくはないだろう。
 だからこそ私は王太子妃としてではなく、一騎士としてこの場にいなくてはならなかった。
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