愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
「ひ、暇なんでしょ!? 私もよ!」
「私は仕事沢山ありますけどっ!?」

“しまった、誘い文句を間違えたわ”

 これが社交をサボった女の末路なのか。いや、社交以前の問題だと思わなくもないが――完全に言葉選びをしくじったと察した私がガクリと項垂れる。
 だが項垂れた私が不憫に見えたのか、再び大きなため息を吐いた彼女が私の方へつ振り返った。

 その時ふわりと昨日渡した保湿液の香りがしてドキリとする。

「使ってくれてるんだ……」

 正直捨てられる覚悟もしていた。
 それがまさか使ってくれただなんて、と思い嬉しさが込み上げる。

 
「どこか行きたい場所があるのならお供いたします」
「いいの?」
「メイド如きがお嬢様の命令には逆らえませんので」

 言い方こそぶっきらぼうだがその声色は案外柔らかく、お礼も兼ねているのか私の案内をしようとしてくれているのだろう。
 
 私は内心彼女の気遣いに感謝しつつ、このチャンスを最大に利用できる場所を考えた。

 
“妻と認めて貰うにはまず味方を作らなきゃ”
 

 社交をはじめるにもまだ知り合いがいない。
 視察はどこを観て回るのかが重要。
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