愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 私を導いてくれた騎士の教えを思い出し私の頬がつい緩む。

「そろそろ私の番ね、勝ってくるわ!」
「私としては怪我せず早々に負けてくださるのがありがたいんですけどね」
「ふふ、どうかしら」

 ベルモント卿の願いを笑い飛ばしながら会場へと足を踏み入れる。

 足元に線引きだけがされている簡易的な会場で向き合うのは、何度も訓練を共にした『友好的な』騎士であった。

 友好的ということは、つまり『本気で護衛になるべくかかってくる』ということである。
 
“だからといって簡単には負けないわよ”


「はじめ!」

“来る!”

 副団長の掛け声に合わせそう確信した私がすぐに後ろへと飛ぶと、さっきまで私がいた場所に木剣が振り下ろされていた。

「本気ね」
「残念ながら手加減出来る余裕はありませんから」
「評価してくれて嬉しいわ」

“踏み込んでくるって信じて逃げておいて良かった”

 筋力ではどうしても負けてしまうため、攻撃を剣で受けることは出来ない。
 勝負は一瞬で決まってしまうだろう。
 
 重心を低くし、どの方向から攻撃が来ても避けられるようにと警戒をする。
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