愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 ここから更に目線を低くし対戦相手の死角に入ることも、砂で目潰しをするのも彼には見られているので同じ手は使えない。

“だったら!”

 私はニヤッと不敵な笑みを浮かべ、木剣を手放した。

「なっ」

 私が武器を放したことに唖然としたのか、対戦相手の騎士の動きが一瞬止まる。
 反対に私の手から落ちた剣はそのまま地面へと真っ直ぐ落ち、そして土へと刺さるその直前――

「う、りゃぁっ!」
「!?」

 カン、と軽い木剣ならではの音を立てて私が剣の柄頭を思い切り蹴ると、真っ直ぐ彼の顔面に向かって木剣が飛んだ。

“隙あり!”

 驚き顔面を腕でガードした騎士の、その隙を突いて大きく踏み込む。

「拳が本命よ!」

“戦場では倒せば勝ちなんだから”

 そして思い切り拳を突き出すと、腕に確かな手応えを感じた。

「ははっ、流石」

 このまますかさず足払いをかけ、もう数発、今度は相手の鼻当たりに拳をお見舞いすれば……そんなことを考えながら対戦相手の騎士の死角に体を滑り込ませた時に観客の方から上がったそんな声にピシッと体が固まる。

「え」
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