愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 ハッとした私が声の上がった方を向くと、先程いつの間にか居なくなっていたあのフードを被った大柄な誰かと目が合った。

 
 鋭い切れ長の目、フードの隙間から一瞬見えた焦げ茶色の髪。

 きっとその髪は櫛をいれずに乱雑にひとつに束ねられているだろう。

“そうよ、絶対そう。一瞬だったけどあの顔は、あの声は――”


「ジーク!!!」

 私は今が選抜大会の対戦中だということも忘れ思わず走り出した。
 ずっとずっと恋しかった、私の護衛騎士。

“私がジークを見間違えることなんてあり得ないもの……!”

 何故ここに、とか、来たのなら堂々と会っていってよ、とか。
 言いたいことが溢れて頭の中がごちゃごちゃになりながら走る。

 少し遠巻きで見ていたジークまでの距離が遠く、なんとか観客の合間を縫ってさっきまでいた場所に着いた時にはもうジークの姿はそこにはなかった。


「なんで……?」


 あれは絶対にジークだった。
 なのに、何故隠れるように去ってしまったのかわからず戸惑っていると、慌てたように私の側へと駆け寄って来たベルモント卿がポンッと私の肩を叩く。

「場外失格です」
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