愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!

31.あの時、という思い出は

「お、おい、あの二人、距離がなんだか近くないか!?」
「近いですねぇ」

 流石に昨日の自分は最低だったと反省した俺は、自身の今日すべき仕事を大急ぎでこなし、妻であるセヴィーナの専属護衛を決める選抜大会の会場へと足を運んでいた。

“途中セヴィーナも何故かノリノリだった気がするが……”

 だがそれでも、相手を気遣わず自身の欲だけをぶつけるという行為は男として決して褒められたものではないだろう。
 
 だからこそ向かった城下町の会場。そして着いた先で見たのが、まさかの第一騎士団団長であるベルモント卿が彼女の顔を覗き込み微笑むという姿だったのである。
 

“ベルモント卿が微笑んでる姿とか滅多に見ないのに!”

 その立場ゆえか、それとも苦労が多いせいか少ししかめっ面をしていることが多い彼は、穏やかに見せる為に作り笑いを貼り付けることはあるがああやって一人に対して顔を覗き込み笑うなんてことをしているところを見たことがない。


 王宮第一騎士団団長という立場とその端正な顔立ちから令嬢に想いを寄せられることは少なくないはずなのに、本人は頑なに距離を置き現在も独身である彼が――……
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