愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
「王太子としての殿下ではなく、一人の人間としてぶつかってきていますね」
「あぁ」

 彼女は俺を王太子としては見ない。
 王太子ではなくただのアルドとして見つめ、彼女も人質という立場ではなくただのセヴィーナとしてぶつかってくるのだ。

 王太子として理想の枠に収まる俺の世界を、力業で壊して巻き込み連れ出すことが出来るのはきっと彼女だけ。

 そしてそんないつでも全力な彼女が見つめる先は、求める相手が自分だけなのだとしたら――……


「ダレアの言う通りだな」


 いつの間にか俺は、そんな彼女が堪らなく愛おしくなっていたらしい。


「約束を持ちかけたのはセヴィーナだ。俺の相手は彼女だけで、彼女の相手も俺だけだ」
「えぇ、そうですね」
「だからベルモント卿に渡すわけにはいかない」
「そこは勘違いだと思いますけどね」

 ベルモント卿に限って、と断言するダレアに内心同意するが、だが二人がこそこそと抜け出したのは間違いないのだ。


「追うぞ」
「今からで見つけられますかねぇ」
「騒ぎの中心がセヴィーナだ」
「あ、途端に見つけられるような気になりました」
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